2026年7月26日

「腸にいいこと」を頑張っているのに、なぜうまくいかないのか
お子さんの不調をなんとかしてあげたくて、テレビや本で見た「腸活」を試してみた。ヨーグルトや納豆、食物繊維を意識して食卓に並べ、良いと聞いたサプリメントも飲ませてみた。
それなのに、なかなか手応えが感じられない。それどころか、お腹が張って苦しそうにしている。「うちの子には合わないのかな」「私のやり方が悪いのかな」と、途方に暮れてしまう。
当院の栄養外来には、そんなお悩みを抱えた親御さんが、たくさんいらっしゃいます。
先にお伝えしたいことがあります。それは、あなたのやり方が間違っていたわけではない、ということです。一生懸命に選んだ食材も、良かれと思って続けたサプリメントも、方向そのものは間違っていません。ただ、「腸」と「栄養」という、切っても切れない二つの歯車が噛み合わず、堂々巡りのループに入り込んでしまっているだけなのです。
今回は、小児外科専門医として来る日も来る日も子どもたちのお腹(腸)を診てきた立場と、分子栄養学の視点の両方から、この「悪循環のカラクリ」と、そこから抜け出すための「正しい順番」についてお話しします。
「腸活」も「サプリ」も、単発では必ず限界が来る
「腸にいいものを食べる」「足りない栄養をサプリで補う」——どちらも、それ自体はとても大切な心がけです。
ただ、多くのご家庭でつまずくのは、これらを「単発の足し算」として捉えてしまう点にあります。何か一つ良いものを足せば、するっと解決するはずだ、と。
けれど、お子さんの体はそんなに単純ではありません。良いものを入れる「入れ物」である腸が整っていなければ、せっかく足したものが体のために働いてくれないのです。土台がぐらついたまま、その上に荷物だけを積み上げていくようなもの。だから、どこかで必ず限界が来ます。
「単発でうまくいかない」のは、努力が足りないからでも、根気がないからでもありません。順番と組み合わせの問題なのです。
お腹(腸)を診てきたからこそ見える「ニワトリとタマゴ」の悪循環
私は小児外科医として、実際にお腹の中の腸を診て、触れてきました。その経験から痛感していることがあります。それは、「腸」と「栄養」は、どちらか一方では回らない両輪だということです。
腸からの視点 — ザルで水をすくうようなもの
腸は「栄養を吸収する場」です。その腸の内側が荒れて、いわば小さな「火事」を起こしている状態では、どんなに質の良いサプリメントを飲んでも、ザルで水をすくうように吸収されずに漏れ出てしまいます。せっかくの栄養が、体のために使われる前に素通りしてしまうのです。
栄養からの視点 — 腸を治す「材料」が足りない
「それなら、先に腸だけを治せばいいのでは」と思われるかもしれません。ところが、ここにもう一つの罠があります。
腸の粘膜は、体の中でもとりわけ新陳代謝が速く、数日単位で新しく生まれ変わっています。その新しい腸の壁を作るためには、タンパク質やビタミン、ミネラルといった「材料」が欠かせません。つまり、栄養が枯渇していると、腸を治すための細胞そのものが作れないのです。
・ 腸が荒れているから、栄養が吸収できない
・ 栄養が足りないから、腸が治らない
どちらから手をつけても堂々巡りになってしまう。これが、「腸と栄養の悪循環」=ニワトリとタマゴの正体です。単発の腸活やサプリが空回りしてしまう背景には、この見えないループが隠れていることが少なくありません。
「良かれと思った腸活」が、かえってお腹を張らせることがある
もう一つ、大切なお話をさせてください。
ヨーグルト・食物繊維・オリゴ糖・発酵食品——これらは一般に「腸にいいもの」とされています。ですが、腸が荒れているタイミングでは、これらがかえって逆効果になることがあります。
これらはいずれも「発酵しやすい成分」を含みます。腸内で細菌が増えすぎている状態のお子さんにこうした食品をたくさん入れると、細菌がそれをエサにして一気にガスを作り出し、お腹がパンパンに張ってしまうのです。良かれと思って頑張っていた腸活が、実はお腹の張りの原因になっていた——これは決して珍しいことではありません。
だからこそ、「何を足すか」の前に、今の腸が、その食物繊維や発酵食品を受け止められる状態なのかを見極めることが、遠回りしないための第一歩になります。このお腹の張りと発酵のしくみについては、子どものお腹の張り・ガスの原因「SIBO」とは|発酵ガス呼気検査で詳しく解説しています。
なぜ、すべて「お腹」から始めるのか
「腸活」の話をすると、「うちの子はお腹より、朝起きられないことや集中力の方が心配です」と言われることがあります。もっともなご心配です。ですが私たちは、そうした悩みこそお腹から診ていきます。理由をお話しさせてください。
体の元気を、氷山にたとえてみます。水面から上に見えているのは「集中できる」「機嫌がいい」「よく眠れる」といった、目に見える元気。けれどそれを支えているのは、水面下にある土台です。
・ ① お腹(消化・吸収) — すべての入口
・ ② 元気(エネルギーを作る力)
・ ③ 安定(血糖のリズム)
・ ④ 守り(免疫)
・ ⑤ 成長(体を作る材料)
どんなに良い食事をしても、良いサプリメントを選んでも、①のお腹で消化・吸収できなければ、②から⑤に届きません。だからお腹は、単なる一つの臓器ではなく「すべての入口」なのです。お腹の不調は、それ自体がつらい症状であると同時に、「栄養が体に届かない原因」でもある——この二重の意味を持っています。
もう一つ、意外に思われるかもしれない事実があります。気分の安定に関わるセロトニンという物質は、その約9割が腸で作られていると言われています。「お腹の調子と、心の元気がつながっている」というのは、感覚的な話ではなく、体のしくみとして理にかなったことなのです。
お腹を後回しにして上の階層だけを整えようとすると、遠回りになります。急がば回れ。お腹から始めるのが、実は一番の近道です。
まず「今の腸」を見える化する — 悪循環マップの描き方
悪循環から抜け出す鍵は、闇雲に良いものを足すことではなく、「今、その子の腸で何が起きているか」を見える化することにあります。地図(マップ)を持たずに歩き回っても、遠回りになってしまうからです。
当院では、お子さんの状態に応じて、腸のいまを次のような角度から確認していきます。
・ 腸に炎症(火事)が起きていないか、その火種は何か
→ 子どものお腹の不調と「腸の炎症」|腸のいまを見える化する3つの検査
・ 今、体に負担をかけている食べ物(引き金)はないか
→ 子どもの遅延型(IgG)食物過敏とは|数日後の不調を読み解く
・ 腸の壁(バリア)がゆるんでいないか
→ 子どもの「リーキーガット(腸もれ)」とは|腸管バリア検査でわかること
こうして「悪循環マップ」を描くと、その子にとって、まず引くべきものは何か・次に足すべきものは何かが見えてきます。ここが定まって初めて、腸活もサプリも、単発ではなく「効く一手」に変わっていくのです。
「検査は異常なし」と言われた方へ — 私たちが数字を2つの視点で読む理由
「血液検査をしたけれど、異常なしと言われました」——そうおっしゃる親御さんは、本当にたくさんいらっしゃいます。
ここで大切なのは、検査結果には2つの読み方があるということです。
・ 視点①:病気がないか(安全の確認) — 一般的な検査で「異常なし」となるのは、この視点。まず何よりも大切な確認であり、他院での「異常なし」という判断は、正しくその役割を果たしています
・ 視点②:今の生活を送るのに十分な栄養と余力があるか — 私たちが加えて診るのは、こちらです
たとえば貧血の検査。ヘモグロビンが基準内なら「貧血なし」となります。けれど、体に貯めてある鉄(フェリチン)まで見てみると、大きく目減りしていることがあります。「病気ではない」ことと、「元気に毎日を過ごせる」ことは、同じではないのです。
だから私たちは、一般的な基準値の内か外かだけでなく、「その子が本来の力を発揮するのに十分な水準か」という目安(至適値)で数字を読みます。基準値ぎりぎりで足りている状態と、余力をもって満たされている状態とでは、体の使える力が違ってくるからです。
この視点については、小児科の血液検査で「異常なし」と言われたら? — 子どもの不調を栄養の視点で読み直すでさらに詳しくお話ししています。
悪循環を断ち切る「正しい順番」
世間で言われる「腸にいいものを入れましょう」という足し算の前に、当院では次の順番でお腹を整えていきます。順番を守ることが、実は一番の近道です。
① 引く(引き算=火を消す)
まずは、腸を荒らしやすいものを一時的に減らします。摂りすぎている甘いものや、体質に合っていない食べ物などを、いったんお休みする段階です。これ以上腸が荒れるのを止める、いわば「火消し」の作業。この段階では、食物繊維や乳酸菌をあわてて増やさないことがポイントです。
② 流す(便とガスの渋滞をとる)
便秘があると、腸の中で便やガスが渋滞し、発酵が進みやすくなります。まずは便通を整えて、渋滞を解消します。お腹の不調と便秘は、地続きの問題であることが本当に多いのです。
③ 修復する(腸の壁と、その材料を整える)
火が収まってきたら、ゆるんだ腸の壁を立て直していきます。ここで必要になるのが、消化・吸収されやすい形のタンパク質や、腸の粘膜を支える栄養素という「材料」です。腸を治すための土台を、体の内側から届けていく段階です。
④ 育てる(腸内細菌を育てる=ここで初めて足し算の腸活)
腸が落ち着いてきて、はじめて「腸内細菌を育てる」段階に進みます。食物繊維や発酵食品は、ここで少量ずつ、腸が受け止められる範囲で取り入れていきます。世間で言う「腸活」は、本来この④の工程にあたります。どんな食べ物や整腸剤がその子に合うかは、腸内細菌検査(腸内フローラ検査)で、より個別に見極めることもできます。
「腸活」でつまずく多くのご家庭は、①〜③を飛ばして、いきなり最後の④から始めています。荒れた畑にいきなり強い肥料をまいても、作物は育ちません。土を耕し、水はけを整えてから種をまく。順番を守ることが、遠回りしないための一番の近道なのです。これは、一夜漬けでは実らない「農場の法則」そのものだと、私は考えています。
どれくらいで変わるのか — 見通しの話を、先にしておきます
ここは、期待を持たせる話ではなく、先にお伝えしておきたい正直な話です。
腸の粘膜そのものは、体の中でもとりわけ生まれ変わりが速く、数日単位で新しくなります。ですが、「腸が荒れやすい体質そのものを立て直す」となると、必要なのは月単位の時間です。数日で劇的に変わるものではありません。
そして、その道のりは一直線ではありません。良くなったり、また少し戻ったりを繰り返しながら、少しずつ底上げされていきます。体調を崩したとき、行事が続いたとき、甘いものが増えたとき——一時的に振り出しに戻ったように感じることがあります。
ここで多くのご家庭が、「やっぱりダメだった」とやめてしまいます。でも、それは失敗ではありません。一進一退は、この取り組みの”普通の姿”です。あらかじめ知っておいていただくだけで、揺り戻しが来たときに慌てずに済みます。
畑と同じです。一夜漬けで実る作物はありません。水をやり続けた人だけが、実りを見ることができます。私たちが「農場の法則」と呼んでいる考え方です。すぐに結果が出ないことを、あらかじめ一緒に引き受けておく。それが、途中でやめずに続けるための一番の準備だと考えています。
私たちが「足すこと」より先に「引くこと」を大切にする理由
ここまでお読みいただいた通り、順番の①は「引く」、②は「流す」です。この最初の段階に、サプリメントは登場しません。
まず整えるべきは、日々の食べ物と生活です。ここが動かないまま何かを足しても、土台のない場所に荷物を積んでいくことになってしまいます。
食事という土台があり、その上で、どうしても食事だけでは届かない部分を補う。それが、サプリメントの本来の役割だと私たちは考えています。この順序が逆になることはありません。
「何を飲むか」の前に、「今、何が負担になっているか」。この順番を守ることを、私たちは何より大切にしています。
当院を受診されると、まず何をするのか
はじめての場所は、それだけで身構えてしまうものです。当日の流れを、先にお伝えしておきます。
・ まず、お話をうかがいます — いつから、どんなときに、どうつらいのか。これまで試してこられたこと(腸活・サプリ・お薬)も、遠慮なく教えてください。「効かなかった」という経験も、その子を知るための大切な情報です
・ 必要に応じて、血液検査で土台を確認します — 前述の「2つの視点」で数字を読み、エネルギー・成長・免疫の土台が足りているかを見ます
・ お腹の状態に応じて、腸を見る検査をご提案することがあります — 全員に最初から行うものではありません。お腹の張りやガスが強いお子さんなど、必要な方に、必要なタイミングでご相談します
・ その結果をもとに、①引く→②流す→③修復する→④育てるのどこから始めるかを、一緒に決めます — いきなり全部は行いません。ご家庭が続けられる形に落とし込むことを何より大切にしています
受診の前に、見ておいていただけると助かること
次のことをメモしておいていただけると、当日の診察がぐっと深いものになります。特別な準備は要りません。
・ お通じの回数と、だいたいの様子(硬さ・量)
・ お腹が張るのは、いつ・何を食べた後が多いか
・ 今飲んでいるお薬・サプリメント(種類と量。お薬手帳や現物があれば確認できます)
・ これまで試して、うまくいかなかったこと
・ 他院での血液検査の結果があれば、その用紙
この記事をここまでお読みいただいた時点で、実は診察の説明の半分は終わっています。残りの時間は、一般論ではなく「お子さん自身のこと」に使えます。それが、私たちが記事を書いている理由でもあります。
「単発」から「設計」へ — 一人で悩まないでください
ここまでお読みいただくと、「腸活」も「サプリ」も、それ単体が悪いのではなく、その子の腸に合った順番と組み合わせで使えていなかっただけだと感じていただけたのではないでしょうか。
一つだけ、お願いがあります。今飲んでいるお薬や、続けているケアを、この記事を読んで自己判断で大きく変えることは避けてください。まずは、かかりつけの先生と相談しながら進めていただくのが安全です。
そのうえで、いろいろ試しても手応えが出ないときは、一人で抱え込まないでください。腸と栄養を専門的に診ている医師に相談することも、大切な選択肢の一つです。専門的な視点で腸と栄養を一緒に見ていくと、絡まった糸のほどき方が見えてくることがあります。当院の栄養外来では、血液や腸の状態をふまえて、その子の「今」に合ったロードマップを一緒に設計しています。詳しい流れはこどもの分子栄養学外来・治療の流れと費用をご覧ください。
今日からできる、小さな一歩
専門的な検査や外来は、ハードルが高く感じるかもしれません。まずはご家庭で、次のような小さな一歩から始めてみてください。いずれも「足す」より先に「引く・整える」を意識するものです。
・ 甘い飲み物やお菓子を、少しだけ減らしてみる(引き算のはじめの一歩)
・ お腹が張って苦しそうなときは、発酵食品や食物繊維を「増やす」手を一度止めてみる
・ 便がしっかり出ているか、お通じのリズムを見てあげる
・ 「良いものを足す」より前に、「今、負担になっているものはないか」の視点を持つ
一つでも当てはまり、なかなか改善しないと感じるなら、それは体からの「土台を整えてほしい」というサインかもしれません。サプリメントを取り入れる場合も、自己判断ではなく、医師の指導のもとで進めていただくと安心です。
合わせて読みたい関連記事
お子さんの腸と栄養のつながりを、別の角度からも知りたい方は、あわせてお読みください。
・ 子どものお腹の不調と「腸の炎症」|腸のいまを見える化する3つの検査
・ 子どものお腹の張り・ガスの原因「SIBO」とは|発酵ガス呼気検査
・ 慢性便秘で薬を続けてきたあなたへ — 便秘外来から栄養外来へつなぐ「次の一歩」
まとめ
・ 「腸活」も「サプリ」も、単発の足し算では限界が来る。土台となる腸が整っていないと、栄養は素通りしてしまう
・ 「腸が荒れて吸収できない」「栄養が足りず腸が治らない」というニワトリとタマゴの悪循環が、空回りの正体
・ 荒れた腸に発酵しやすいものを入れると、かえってお腹の張りを招くことがある
・ だからまず「今の腸」を見える化し、引く → 流す → 修復する → 育てるの順番で整える
・ 世間で言う「腸活」は、本来いちばん最後(④育てる)の工程。順番を守ることが遠回りしないための近道
・ お腹は「すべての入口」。ここが整わないと、元気・成長・免疫という上の土台に栄養が届かない
・ 変化には月単位の時間がかかり、一進一退は普通の姿。それを知っておくことが、続けるための一番の準備
・ 最初にご提案するのは「足すこと」ではなく「引くこと」。サプリメントは食事という土台の上の補助
「うちの子には合わない」とあきらめる前に、その背景にある悪循環のしくみを一緒に解きほぐしていきましょう。単発の頑張りを、実りのある「設計」に変えていく。そのお手伝いをするのが、私たちの役割です。まずはお気軽にご相談ください。
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部卒。都立小児総合医療センター外科医長などを経て小森こどもクリニックを開院。
小児科医・小児外科専門医として数多くのおなか(消化管)の手術や治療に携わり、「こどものお腹のスペシャリスト」として消化管の構造と機能に精通する。
自身や家族の不調が栄養療法で改善した手応えから、「西洋医学だけでは届かない不調」の解決策として「栄養」の重要性を確信。「吸収の場である腸」と「体の材料となる栄養」の両面から、標準治療と分子栄養学を柔軟に組み合わせ、その子の体の土台を根本から整える「統合的な医療」を実践している。日本小児外科学会認定専門医・指導医、医学博士。
小森先生の最新情報を受け取る
X(旧Twitter)でフォロー
栄養・子育て・小児外科の知見を毎日発信しています。
小児外科医 小森広嗣🩺 栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
LINE登録のご案内
栄養療法の詳しい情報や、日々のケアのヒントをLINEでお届けしています。本気でお子さんの体を整えたいとお考えの方は、ぜひご登録ください。