2026年7月04日

「アレルギー検査は異常なし」。でも、何かが合っていない気がする
お子さんの原因不明の腹痛、なかなか治らない湿疹、理由のわからないイライラ——。「もしかして食べ物が関係しているのでは?」と思い、アレルギー検査を受けても「異常なし」。でも、どこか腑に落ちない。そんな経験はありませんか。
実は、一般的なアレルギー検査で「異常なし」でも、食べ物が体に影響しているケースがあります。そのカギになるのが、遅延型(IgG)食物過敏という考え方です。
この記事では、遅延型(IgG)食物過敏とは何か、通常のアレルギーと何が違うのか、そして当院がこの検査を「どう位置づけて使っているのか」を、小児外科専門医の視点から丁寧に解説します。
即時型(IgE)と遅延型(IgG)— 2つのアレルギーの違い
「食物アレルギー」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、食べた直後にじんましんや口の腫れ、ひどい場合は呼吸困難(アナフィラキシー)が出るタイプです。これは 即時型アレルギー(IgE) と呼ばれ、命に関わることもある、はっきりとした反応です。一般的な病院のアレルギー検査は、この即時型(IgE)を調べています。
一方、遅延型(IgG) は、まったく性質が異なります。
・ 食べてから 数時間〜数日後 に、じわじわと不調が現れる
・ 症状が出るまでのタイムラグが大きく、「何が原因か」が非常にわかりにくい
・ じんましんのような激しい反応ではなく、腹痛・だるさ・肌荒れ・気分の変化など、ぼんやりした慢性的な不調として出やすい
食べた直後に反応が出ないため、保護者もお子さん自身も「まさかこの食べ物が原因だとは」と気づけません。ここが、遅延型のいちばん厄介なところです。
こんな不調の背景に隠れていることがある
遅延型(IgG)食物過敏が関わっている可能性がある症状は、実に多彩です。
・ 原因のはっきりしない、繰り返す腹痛
・ 薬でもなかなか治まらないアトピー・湿疹・肌荒れ
・ 慢性的な鼻づまり
・ 落ち着きのなさ、イライラ、気分のムラ
・ 疲れやすい、なんとなく元気が出ない
もちろん、これらの症状がすべて食べ物のせいだと言いたいわけではありません。ただ、「いろいろ調べても原因がわからない」という不調の一因として、食べ物と腸の関係が隠れていることがある——という視点を持っておくことは、とても大切です。
なぜ「普段食べているもの」が不調につながるのか
ここで多くの方が疑問に思うはずです。「毎日食べている、体にいいはずのものが、どうして不調の原因になるの?」と。
カギは 腸の状態 にあります。
健康な腸では、食べ物はきちんと消化・吸収され、問題は起きません。ところが、腸の壁(粘膜)が弱って炎症を起こしていると、未消化のタンパク質が腸の壁をすり抜けて血液に入り込みやすくなります(この状態を「リーキーガット=腸もれ」と呼びます)。すると免疫が「これは異物だ」と反応し、IgG抗体を作って、慢性的な炎症が起きやすくなるのです。
つまり、遅延型の反応は、「その食べ物が悪い」というより、「今の腸が、その食べ物を受け止めきれていない」というサインとも言えます。言いかえれば、反応する食品が多いこと自体が、「腸の壁が今、荒れている(漏れやすくなっている)サイン」でもあるのです。だからこそ、当院では食べ物(引き金)だけでなく、必ず「腸そのものの壁の状態」も——腸管バリア検査などで——一緒に見ていきます。「何を控えるか(引き算)」と「壁をどう修復するか」はセットだからです。
牛乳・小麦に「2つの顔」がある理由
腸に負担をかけやすい代表格が、牛乳と小麦です。実はこの2つには、まったく異なる「2つの顔」があります。
・ タンパク質としての顔(カゼイン・グルテン)— 腸の壁を刺激し、炎症やリーキーガットの引き金になる。これが遅延型(IgG)で見える部分です
・ 糖質としての顔(乳糖・フルクタン)— 腸内で発酵してガスを生み、お腹の張りや腹痛の原因になる。こちらはアレルギーではなく「発酵」の問題です
「パンを食べるとお腹が張る」——この原因が、グルテン(タンパク質)なのか、フルクタン(糖質)なのかで、対策はまったく変わります。当院がお腹の症状を「炎症」と「発酵」の両面から見るのは、このためです。
遅延型(IgG)食物過敏検査でわかること
遅延型(IgG)食物過敏検査は、指先などから少量の血液を採り、多数の食品に対するIgG抗体の反応を一つひとつ調べる検査です。当院では、日本人がよく食べる 132項目(食品131項目+添加物など)のパネル を基本としています。
さらに当院が推奨しているのが、このIgG検査と、腸の壁の荒れを見る「腸管バリア検査」が セットになったパネル(FIT132G) です。1回の少量の採血で、治療に直結する「引き金」と「壁」の両方が同時にわかるため、お子さんの負担も少なくすむからです。
普段なにげなく食べているものの中に、今の腸にとって刺激になっているものが隠れていないか。それを「なんとなく」ではなく、きめ細かく、具体的に見える化できるのが、この検査の最大の価値です。
【最重要】この検査の「正しい読み方」
ここは、誤解が非常に多く、そして最も大切なところなので、はっきりお伝えします。
遅延型(IgG)食物過敏検査は、「反応が出た食品を、一生食べてはいけない」という検査ではありません。
食物と症状は、決して「1対1」の単純な関係ではありません。この点については、小児アレルギーの専門学会も、IgG検査を「食物アレルギーの診断」に用いることには慎重な立場をとっています。私たちも、その考え方を尊重しています。IgGが高い=ただちに完全除去、という短絡的な使い方は、かえってお子さんの食の幅を狭め、栄養バランスを崩しかねません。
では、当院はこの検査をどう位置づけているのか。私たちは、これを「今の腸の状態における、短期的な刺激の地図」として使います。
・ 今、腸に炎症があるフェーズだからこそ、反応しやすくなっている食品がある
・ その「今の引き金」を見抜いて、一定期間だけ意識的に減らしてみる
・ 腸の土台が整ってくれば、また食べられるようになるものも多い
つまり、「ずっと食べられない」ではなく、「今このフェーズでは、これを控えると腸が休まりやすい」という方向性をつけるための道具なのです。
検査の後こそが本番 — 「除去して終わり」にしない
大切なのは、検査結果を受け取ったあとの進め方です。当院では、次のように丁寧に進めます。
・ 反応の強かった食品のうち、いくつかを 一定期間だけ 意識的に控える
・ その間の体調の変化(腹痛・肌・気分・便通)を観察する
・ 落ち着いてきたら、控えていた食品を 少しずつ再び戻して、反応を確かめる
・ 同時に、腸の壁を守る栄養(ビタミンD・亜鉛・タンパク質など)で土台を立て直す
検査結果の数字だけに振り回されず、あくまでお子さんの「今の体調」を軸に判断していく。これが、遅延型(IgG)食物過敏検査を安全に、そして有効に活かすコツです。
当院が考える「検査の優先順位」
検査は、多ければよいというものではありません。当院がもっとも大切にしているのは、「その検査が、明日からの治療にどれだけ直結するか」です。お腹の不調の改善は、いつも「引き算(負担になっているものを減らす)」から始まるからです。この考えにもとづく、当院の検査の優先順位は次のとおりです。
この記事でご紹介した遅延型(IgG)食物過敏検査は、2番目の「最優先」にあたります。「今、何を控えると腸が休まるか」という引き算の地図を描く、治療に直結する検査だからこそ、血液検査の次に優先してご提案しています。
なお、4番目の「腸内細菌検査」は、IgG検査とはまったく切り口が異なります。IgGが「引き算」の地図だとすれば、腸内細菌検査は「どんな食物繊維や整腸剤が合うか」という「足し算」の相性を探るためのものです。当院ではまず引き算を標準としますが、足し算を個別化したい方には、こちらの検査も並行してご提案しています。
検査の項目・費用について
遅延型(IgG)食物過敏検査と腸管バリア検査がセットになった「FIT132G」をはじめ、当院で受けられる検査の具体的な項目や費用の目安は、当院ホームページの栄養外来のご案内ページにまとめています。あわせてご覧ください。
▶ 子どもの栄養外来(分子栄養学外来)のご案内・費用の目安を見る
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まとめ
・ 食べた直後に出る即時型(IgE)に対し、遅延型(IgG)は数時間〜数日後にじわじわ出るため、原因に気づきにくい
・ 腹痛・湿疹・鼻づまり・イライラ・疲れなど、慢性的な不調の背景に隠れていることがある
・ 遅延型は「その食べ物が悪い」のではなく、「今の腸が受け止めきれていないサイン」
・ 検査は「一生食べられない」を決めるものではなく、「今控えると腸が休まる」を見抜く地図
・ 除去して終わりにせず、腸の土台を整えながら、少しずつ食を戻していく
「食べ物と不調のつながり」を、思い込みではなく具体的に見える化して、お子さんの食を狭めすぎない形で整えていく。まずは受診のうえ、診察でご相談ください。
▶ 子どもの便秘と栄養|鉄・ビタミンD不足と「入れる順番」(便秘専門サイト)
お腹と栄養のつながりを、便秘専門サイトで解説しています。
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「うちの子はどうだろう」と確かめてみたい方へ
食べたあとの不調の背景に何があるかは、血液検査で確かめられます。当院の子どもの栄養外来(分子栄養学外来)では、食べたものと不調の出方・便の様子までうかがったうえで、お子さん一人ひとりに合わせて組み立てていきます。
ご予約は、当院ホームページの予約システム(デジスマ診療アプリ)から承っています。
すでに通院中の方へ:体の材料の変化は、数ヶ月かけて少しずつ表れます。3ヶ月目の再検査で、ここまでの変化と次の一歩を一緒に確かめましょう。
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小児外科医 小森広嗣🩺栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
小児外科専門医・指導医、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。小児外科の出身として、いまは地域の中で、お腹と栄養の外来を深く追求している。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療と情報発信の両輪で活動している。
▶ 著書:『うんちが出ない!』(英智舎・2026年12月9日発売)
▶ 取材・講演のお問い合わせ:press@komori-kodomo.com