2026年8月12日

朝、なかなか起きられない。夕方になると機嫌が崩れる。集中が続かない。食が細い。すぐに疲れてしまう。
こうした症状の背景に、栄養の不足が隠れていることがあります。
体調を崩したときの診療では、栄養状態まで踏み込んで調べる機会は、そう多くありません。そのため「特に異常はありません」と言われたまま、原因が分からずに時間が過ぎていくことがあります。
当院の栄養外来がしていること
当院の栄養外来では、まず血液検査でお子さんの栄養状態を分析します。
鉄が足りているか。たんぱく質という材料が届いているか。血糖は安定しているか。ビタミンやミネラルはどうか。そのうえで、食事の組み立てを一緒に考え、必要に応じて医療用のサプリメントをご提案します。
そうやって、これまで説明のつかなかった症状が軽くなっていくお子さんを、当院は診てきました。朝が起きられるようになった。夕方の崩れ方が変わった。学校での集中が続くようになった。土台が整うと、からだは変わります。
なお、この組み立てがいちばん力を発揮するのは、お子さん本人が自分の栄養に関われるようになってからです。サプリメントを飲める。食事の選び方に自分で関われる。そして「体が変わった」と本人が感じられる。この三つが揃うのが、おおむね小学校中学年以降です(乳幼児の考え方は、記事の後半でお伝えします)。
この流れの出発点にあるのが、血液検査です。
腕の静脈から採血をすれば、鉄の貯金も、貧血の有無も、たんぱく質も、ビタミンDも、甲状腺も、一度に見ることができます。項目がしっかり見えるという点で、静脈採血は今も標準です。
小児科では、その採血がネックになります
ただ、子どもの場合、入口である採血そのものが、いちばん高いハードルになることがあります。
恐怖や不安が先に立ってしまって、検査までたどり着けない。 小さなお子さんで血管がまだ細い。少しふくよかで血管が見えにくい。理由はさまざまですが、「検査をしたほうがよい」と分かっていても実施できない場面は、決して珍しくありません。
2026年9月から、当院では指先から3〜4滴で受けられる栄養の血液検査を始めます。項目は静脈採血より厳選されますが、負担のかたちを変えることで、これまで検査に進めなかったお子さんにも受けていただけます。
※現在、検査キットを手配しております。ご希望の方は、診察のときに医師またはスタッフへお申し出ください。準備が整いしだい、当院よりご連絡いたします。
検査ができないときも、診療は止まりません
採血が難しいお子さんに、当院が何もしてこなかったわけではありません。
診察と病歴から、栄養の状態はかなりの精度で読み取れます。朝どんなふうに起きてくるか。夕方に崩れるのか、朝がつらいのか。肉や魚をどれくらい食べているか。お通じの回数とかたさ。爪や髪の様子。学校での集中の続き方。
こうした情報を重ねれば、鉄なのか、たんぱく質なのか、ビタミンB群なのか、足りていないものの方向は見えてきます。 その見立てに沿って医療用のサプリメントを少量から始め、食事の組み立てを一緒に考える。そうやって元気を取り戻していくお子さんは、少なくありません。これは推測ではなく、診察という技術です。
そのうえで、当院はやはり血液検査を受けていただきたいと考えています。
診察から読み取れるのは方向であって、距離ではないからです。 鉄の貯金が心もとない程度なのか、底をついているのか。そこが分かれば、始め方も、かける時間の見積もりも変わります。そして三か月後、変わったのかどうかを数字で見比べることができます。
診察で方向を決め、血液検査で距離を測る。 この二つが揃うと、栄養の組み立ては目に見えて確かになります。
指先から3〜4滴で、わかること
指先にごく小さな傷をつけて、3〜4滴(0.065mL)。腕の血管に針を入れる必要はありません。採取は院内で行いますので、ご自宅で何かをしていただく手間もありません。
この3〜4滴で、次のことが見えます。
・鉄の貯金(フェリチン)
血が足りているかどうかではなく、鉄を「貯めておけているか」を見ます。当院がもっとも重く見ている項目です。
鉄は、血をつくるためだけに使われているわけではありません。からだがエネルギーを生み出す工程にも、気持ちを安定させる物質をつくる工程にも、鉄が要ります。 そして体は、限られた鉄をまず血のために回します。
だから鉄の貯金が減っていくとき、貧血として現れるより先に、疲れやすさ・集中の続かなさ・朝の起きにくさとして出てくることがあります。「血液検査で貧血はないと言われた」お子さんでも、貯金のほうは底をついている——これは、当院の外来で決して珍しくない光景です。
・たんぱく質が足りているか
総たんぱく・アルブミン・尿素窒素などを組み合わせて読みます。ひとつの数字ではなく、束で見ることで、材料が届いているかが分かります。
・ビタミンB群の使われ方
肝臓の数値(ASTとALT)の出方から、ビタミンB6の不足を推測します。これらの数値は「高いと悪い」と思われがちですが、低すぎることにも意味があります。
・血糖の安定
血糖・HbA1c・中性脂肪から、血糖の波を見ます。朝の不機嫌や、夕方の崩れ方の背景を探る手がかりになります。
・からだの土台に無理がないか
肝臓や腎臓の様子を確認します。栄養を組み立てる前に、土台が無理をしていないかを見ておく、という位置づけです。
この検査で、わからないこと
この検査は入口であって、すべてを見る検査ではありません。 次のことは分かりません。
・貧血があるかどうか(ヘモグロビン)
・からだに炎症があるかどうか(CRP)
・亜鉛が足りているか
・ビタミンDが足りているか
炎症が分からないことには、ひとつ注意が要ります。からだのどこかに炎症があると、鉄の貯金の数値は実際より高く出ることがあります。足りているように見えて、本当は足りていない。そういう読み違いが起こりうる検査です。ですから、この検査だけで「鉄は大丈夫です」と言い切ることはしません。
結果は1枚の用紙にまとめてお渡しします。そこには、分からない項目は「分からない」と書いてあります。 空欄にも、正常とも書きません。
メリットとデメリットを、両方お伝えしたうえで選んでいただきます
新しい検査を導入するとき、当院は良いところだけを説明することはしません。
指先3〜4滴という負担の軽さは、そのまま見える範囲の狭さと引き換えになっています。静脈採血より、分かることは少ない。それは技術の限界ではなく、この検査の設計です。
検査の幅は厳選されますが、方向性はより確かにつけられる。 その判断で、当院はこの検査を導入しました。
検査は、白黒をつけるための道具ではありません。次の一手を決めるための道具です。 どこまで見えて、どこから先は見えないのかを知ったうえで使えば、少ない項目でも十分に役に立ちます。
静脈採血と、どう使い分けるか
当院の第一選択は、いまも腕からの静脈採血です。
理由は単純で、分かることの量が違うからです。静脈から採れば、貧血も、炎症も、亜鉛も、ビタミンDも、甲状腺も、同じ一回で見ることができます。指先の検査で気になる所見が出れば、あらためて静脈から採ることになり、お子さんは結局二回、採血の場面を経験します。
ですから、静脈採血が問題なく受けられるお子さんには、はじめからAコース以上をおすすめします。
指先の検査は、次のような場合に力を発揮します。
・血管がまだ細い、小さな年齢のお子さん
・ふくよかで血管が見えにくいお子さん
・過去の経験から、採血に強い不安があるお子さん
・まずは負担の少ない形で、栄養の全体像をつかんでおきたいご家庭
この使い分けは、診察の中で一緒に決めていきます。
0歳・1歳・2歳のお子さんの場合
小さなお子さんについては、少し違う考え方をしています。
この時期は、栄養外来のメインの対象ではありません。 理由は、打てる手が限られているからです。飲めるものはミルクと母乳、食べられるものは離乳食。サプリメントで細かく組み立てるという方法が、そもそも取りにくい時期です。この年齢では、ミルクと離乳食をどう工夫するかが、栄養の中心になります。
そのうえで、当院には二つの見方があります。
ひとつは、お母さんを診るという方法です。
赤ちゃんは、お母さんのからだから枝分かれしてきた存在です。妊娠・出産・授乳を通じて、お母さんの栄養状態は赤ちゃんの背景に影響します。女性は一生を通じて鉄と向き合い続けると言われており、出産を経たあとはなおさらです。お母さんの血液を見ることで、その子の背景が見えてくることがあります。 これは、お母さん自身の回復のためにもなります。
もうひとつは、症状から不足を疑い、経過を見ながら補うという方法です。
寝つきと目覚め、機嫌の波、離乳食の進み方、便の様子、肌の状態。こうした変化を追いながら、疑わしい栄養素を少量から補い、変化が出るかどうかを一緒に見ていきます。診察から組み立てる方法を、より慎重に、より小さな一歩で行う形です。
そのうえで、この子自身のデータを見ておきたいという場面はあります。指先3〜4滴という選択肢は、そういうときにも使えます。
とくに多いのが、上のお子さんで栄養の組み立てを経験されたご家族です。「お兄ちゃんのときにこれで変わったから、下の子はもっと早くから土台をつくっておきたい」——そう考えて来られる方が少なくありません。
本来、栄養の土台づくりは、生まれるより前から始まっています。お母さんのからだに蓄えられていたものが、そのまま赤ちゃんの出発点になるからです。この時期にできることは限られていても、知っておく意味は十分にあります。
受診されたら、どうなるか
① まずは診察でご相談ください
お子さんの様子をうかがい、からだの状態を確認します。血液検査は、医師が必要と判断してはじめて行うものです。静脈採血がよいか、指先がよいか、あるいは今は検査をしないほうがよいか。ここを一緒に決めるところから始めます。
② ご相談のうえ、検査を行います
検査の適応、時期は、診察の中でご相談しながら決めます。採取そのものは数分で終わります。
③ 検査センターへ送ります
④ 結果が届いたら、診察でご説明します
1枚の用紙をお渡しし、医師が読み方をご説明します。分からない項目についても、そのままお伝えします。
費用は13,200円(税込)で、医師による結果説明(10分)を含みます。結果は、検体をお預かりしてからおよそ1週間です。
診察でお子さんの状態を確認したうえで検査を決める——この順序だけは、いつも変わりません。
来院前に、見ておいていただきたいこと
診察の時間を、その子だけの話に使うために、次のことを思い出しておいていただけると助かります。
・朝、どんなふうに起きてくるか(自分で起きるか、何度も声をかけるか)
・夕方から夜にかけての機嫌の変わり方
・食事のとき、肉や魚をどれくらい食べているか
・お通じの回数と、かたさ
他院で受けた血液検査の結果をお持ちでしたら、ぜひご持参ください。古いものでも構いません。
結果が出てからの見通し
栄養は、薬のようにすぐ効くものではありません。
鉄の貯金が足りていない場合、それが積み上がってくるまでには数か月かかります。途中で「良くなった気がする」「また戻った気がする」と、一進一退を感じられることもあります。それは失敗ではなく、ふつうの経過です。
当院では、およそ三か月を目安に、もう一度同じ検査で見比べていただくことをおすすめしています。数字が動いているのを目で見ると、続ける力が変わります。
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栄養の土台については、こちらの記事でも詳しくお伝えしています。
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まとめ
栄養を組み立てるうえで、血液検査は当院がもっとも頼りにしている道具です。
静脈採血が受けられるお子さんには、これからも静脈採血をおすすめします。そのうえで、負担のかたちを変えた選択肢がひとつ増えました。 項目は厳選されますが、方向を確かにするには十分です。
分かることは限られています。分からないことは、分からないとお伝えします。そのうえで選んでいただければ、次の一歩は確かなものになります。
ご希望の方は、診察のときに医師またはスタッフへお声かけください。ご予約は当院ホームページの予約システムから承っております。
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診察室では話しきれないこと、医師が何を考えながら診ているのかを書いています。
小児外科医 小森広嗣🩺栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
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この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部卒業。東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、東京都国分寺市に開院。日本小児外科学会認定の小児外科専門医・指導医、医学博士。年間延べ約5,000組のお子さんの便秘診療にあたる。
腸の「構造」を手で診てきた小児外科専門医の視点と、分子栄養学による「機能」の評価。この両面からお子さんのからだの土台を整える診療を行っている。