2018年4月25日

授乳がうまくいかない、浅飲みで体重が増えない、乳首が痛い——その原因のひとつとして「舌小帯短縮症」を目にした保護者の方へ。家庭でできる確認の目安と、受診を考える判断材料を、小児外科専門医が解説します。
「うまく飲めない」の原因が、舌小帯とは限りません
授乳がうまくいかない。おっぱいを浅くしか吸えない。飲むのに時間がかかり、体重の増えが気になる。乳首が痛くて、授乳の時間が憂うつになってしまう——。
調べていくうちに「舌小帯短縮症」という言葉にたどり着き、「うちの子はこれかもしれない」と思われたのではないでしょうか。
ここで、まず最初にお伝えしておきたいことがあります。
舌小帯が短くても、ほとんどの赤ちゃんは問題なくおっぱいを飲めます。 そして逆に、哺乳がうまくいかない赤ちゃんのうち、舌小帯短縮症が原因といえるのはごく一部です。
授乳の悩みには、赤ちゃんの抱き方や吸わせ方、お母さんの乳房の状態、赤ちゃんの体重や体力、口の中の他の要因など、さまざまな背景があります。舌小帯はそのうちのひとつにすぎません。
ですからこの記事は、「舌小帯が原因だと決めつけるため」のものではありません。確認すべきことを整理し、必要なら適切な相談先にたどり着いていただくためのものです。
舌小帯短縮症とは
舌の裏側の真ん中に、口の底へ向かうヒダがあります。これを舌小帯といいます。
このヒダが生まれつき短かったり、舌の先端近くまでついていたりして、舌の動きが制限される状態を舌小帯短縮症といいます。乳児のおよそ1〜3%に見られ、男の子にやや多いといわれています。決して珍しいものではありません。
家庭でできる確認の目安
診断は診察が必要ですが、受診前にご家庭で確認できる目安があります。
舌の形を見る
赤ちゃんが泣いたときなどに、舌の様子を見てみてください。
・舌を出したとき、先の中央がくびれてハート型(またはW字型)になる
・舌の先を、上の歯ぐきの裏につけられない
これらが見られる場合、舌の動きが制限されている可能性があります。
授乳の様子を見る
形以上に大切なのが、実際に困りごとが起きているかです。
・おっぱいを飲むのに時間がかかる
・浅くしか吸えない(浅飲み)
・飲んでいる途中で吐き出しやすい
・空気ばかり飲んでしまう
・体重の増えが思わしくない
・お母さんの乳首が痛む、傷ができる
「舌の形」と「授乳の困りごと」の両方がそろっているときに、舌小帯短縮症を考える意味が出てきます。 形だけで、困りごとがないのであれば、多くの場合そのまま様子を見て問題ありません。
受診を考えるタイミング
体重の増えが思わしくない、授乳のたびにつらい思いをしている——そうした状態が続いているなら、一度ご相談ください。
うまく飲めているかどうかの判断は、実際に難しいことがあります。当院では、お子さんを直接拝見し、ご家庭での授乳の様子を詳しく伺ったうえで、どうするかを一緒に考えていきます。
授乳の悩みは、「気のせい」でも「頑張りが足りない」でもありません。ご自身を責める必要はまったくありません。
切開を受ける時期の目安
基本は、生後間もない時期がおすすめです。
哺乳がうまくいっていない赤ちゃんについては、新生児期(生後1か月未満)のうちに切開を行うこともあります。 飲めない状態が続くことによる赤ちゃんとお母さんの負担を、早く取り除いてあげられるからです。
目安としては、歯が生えてくる前、できれば1歳ごろまでとご案内しています。この時期であれば、外来での日帰り切開が行いやすいためです。
1歳を過ぎると外来での切開は難しくなり、個別のご相談とさせていただいています。3歳以降になると外来では難しい場合がありますが、実際に受けられたお子さんもいらっしゃいます。お子さん本人の性格やご家族の状況を見ながら、一緒に判断していきます。
「この時期を過ぎたら手遅れ」ということではありません。 大切なのは、お子さんの状況に合ったタイミングで行うことです。
切開はどのように行うのか
適応と判断された場合、当院では外来での日帰り手術を行っています。入院は必要ありません。
局所麻酔を行ったうえで、舌小帯を切開します。手術自体は数分で完了します。術後は止血を確認し、水分や母乳・ミルクが十分に取れることを確認したうえでご帰宅いただきます。
切開した直後から、上手におっぱいを飲めるようになる赤ちゃんもいます。 乳首の痛みが限界に達していたお母さんが、その場で表情を変えられる——そうした光景を、私たちは何度も見てきました。
術後に気をつけていただくこと
切る部分は粘膜なので、切ったあとに縮んで再びくっついてしまう(癒着)ことがあります。 そのため、癒着を防ぐためにご自宅で舌をよく動かす練習をしていただきます。やり方は術後にご説明します。
なお、程度が強いタイプでは、短縮を予防するために特殊な形成術を加えることがあり、その場合は入院での治療が必要になります。年齢や状態によっては全身麻酔が望ましいと判断し、適切な医療機関をご紹介することもあります。
迷っている段階でも、受診いただけます
「舌小帯が原因なのか分からない」「切った方がいいのか判断できない」——そうした段階での受診も承っています。
診察のうえで、舌小帯が関係しているのかどうか、切開が適応になるのかを、当院の視点からご説明します。「舌小帯は関係ないと思います」という結論になることもあります。 それも含めて、はっきりさせることに意味があると考えています。
授乳の悩みは、毎日のことだけに消耗します。原因が分からないまま抱え続けるより、一度はっきりさせてしまいましょう。
▶ 舌小帯外来のご案内はこちら
▶ 切る・切らないの判断について詳しくはこちら
※この記事は一般的な情報をお伝えするものです。お子さんの状態はお一人おひとり異なりますので、自己判断はなさらず、必ず医師にご相談ください。
この記事を書いた人
小森 広嗣(こもり こうじ)
小森こどもクリニック 院長/日本小児外科学会 小児外科専門医
慶應義塾大学病院 小児外科、東京都立小児総合医療センター 外科医長を経て、2018年2月に東京都国分寺市で小森こどもクリニックを開院。赤ちゃんから思春期世代まで、数多くの手術・治療に向き合ってきました。
舌小帯短縮症については、外来での日帰り切開手術を年間40〜50件行っています。また、これまで5000組を超えるお子さんの便秘診療に携わってきました。
「症状を薬で抑えるだけでなく、本当の悩みの根っこを一緒に探す医師でありたい」——それが開院以来変わらない診療の軸です。