2019年6月20日

「舌小帯を切った方がいい」と言われたけれど、本当に必要なのか迷っている——そんなご家族へ。当院がグレード分類だけで決めない理由と、切る・切らないを決めるときに一緒に確認していることを、小児外科専門医が解説します。
「切った方がいい」と言われて、迷っているご家族へ
「舌小帯を切りましょう」と言われた。でも、本当に必要なのだろうか。
小さな体にメスを入れることへのためらい。今はミルクも飲めているし、体重も増えている。それなのに切る必要があるのか。かといって、このまま様子を見て、将来「あのとき切っておけば」と後悔しないだろうか——。
この迷いは、7年前も今も、診察室で最も多く伺うご相談です。
調べても、医療機関で聞いても、答えがはっきりしない。それもそのはずで、舌小帯の治療については専門家の間でも議論があり、すべてに決着がついているわけではありません。
だからこそ、この記事では「正解」をお示しするのではなく、当院が何を見て、何をご家族と一緒に確認しているのかをお伝えします。
「舌小帯が短い=すぐ手術」ではありません
まず、はっきりとお伝えしておきたいことがあります。
舌小帯が短いと指摘されても、多くのお子さんは治療をせずに育ちます。 軽度であれば成長とともに気にならなくなることもあります。
治療方針を決めるとき、舌小帯の状態を客観的に評価するグレード分類という指標があります。当院でも必ず用います。しかし、この指標だけでは決められません。
なぜなら、同じグレードでも、お子さんが実際に何で困っているかは一人ひとり違うからです。
当院が見ている2つのこと
① 指標(客観的な評価)
舌小帯がどの程度短いのか、舌の動きがどれくらい制限されているのかを評価します。舌を出したときにハート型やW字型になるか、どこまで持ち上がるか、といった点を確認します。
② 対話(いま何に困っているか)
そして、こちらを同じくらい重視します。
・今、何で困っていますか
・将来、どんなことが不安ですか
・哺乳の状態はどうですか。体重は増えていますか
・発音の発達はどうですか
・食事の様子で気になることはありますか
この2つを合わせて、はじめて方針が決まります。
たとえば、グレードとしては軽度でも、授乳がうまくいかずお母さんが限界に近い状態であれば、切開を検討する意味があります。逆に、グレードとしては中等度でも、哺乳も体重増加も順調で困りごとがなければ、経過を見るという判断になることもあります。
選択肢は「切る」か「切らない」かだけではありません
方針は3つあります。
経過観察 — 困りごとがなく、成長とともに改善が期待できる場合
舌のトレーニング(リハビリ) — 舌の動きを促すことで改善が期待できる場合
切開(手術) — 困りごとがあり、切ることで改善が見込める場合
「様子を見ましょう」も、何もしないという意味ではありません。いつ、何を目安に見直すかを決めたうえでの、ひとつの選択です。
切る場合に考えていること
切開を行う場合、当院では外来での日帰り手術で対応しています。局所麻酔を用い、手術自体は数分で終わります。入院は必要ありません。
哺乳がうまくいかず、お母さんの乳首の痛みも限界に達していた赤ちゃんが、手術の直後からしっかりおっぱいを吸えるようになる——そうした変化を、私たちは何度も目にしてきました。また、将来の発音を見据えて幼児期に受けるお子さんもいらっしゃいます。
切った部分は粘膜のため、再びくっついてしまう(癒着)ことがあります。それを防ぐために、ご自宅で舌をよく動かす練習をしていただきます。
時期の目安
基本は、生後間もない時期がおすすめです。 哺乳がうまくいっていない赤ちゃんについては、新生児期(生後1か月未満)のうちに切開を行うこともあります。
目安としては、歯が生えてくる前、できれば1歳ごろまでとご案内しています。1歳を過ぎると外来での切開は難しくなり、個別のご相談とさせていただいています。3歳以降になると外来では難しい場合がありますが、実際に受けられたお子さんもいらっしゃいます。お子さん本人の性格やご家族の状況を見ながら、一緒に判断していきます。
「この時期を過ぎたら手遅れ」ということではありません。
※年齢や状態によっては、全身麻酔での手術が望ましいと判断し、適切な医療機関をご紹介することもあります。また程度が強いタイプでは、短縮を予防するために特殊な形成術を加えることがあり、その場合は入院での治療が必要になります。
いちばんお伝えしたいこと
舌小帯の治療は、必要・不要をめぐってさまざまな議論があり、結論が出ていない部分もあります。比較実験ができない領域だからです。
ですから私は、こう考えています。
どちらが正しい、間違っているというものではありません。目の前のお子さんの状態を見て、ご家族が納得して選べることが、いちばん大切です。
これは、私が7年前にこのサイトに書いた文章とまったく同じ考えです。診てきたお子さんの数は増えましたが、この一点は変わっていません。
「切る」と決めるときも、「切らない」と決めるときも、ご家族が納得して前に進めることを最も重視しています。
別の意見を聞きたい方へ — 受診前にお伝えしておきたいこと
他院で診断を受け、手術をすべきかどうか迷われている方の受診も承っています。ただ、受診の前に、正直にお伝えしておきたいことが2つあります。
① 前の医療機関の判断について、コメントはいたしません
私たちは、その時点でのお子さんを診ていません。診ていない状態を後から論評することはできませんし、担当された先生には、その時点での判断の理由があったはずです。
当院がお伝えできるのは、いま診察させていただいたうえでの、当院の視点による適応の判断です。「切ったほうがよい」「今は必要ない」——どちらであっても、なぜそう考えるのかをご説明します。
② 外来は「診療の場」です
保険診療の枠の中では、お一人にお取りできる時間に限りがあります。その限られた時間は、お子さんの状態を診て、医学的に判断することに使わせていただきます。
お子さんの将来や子育ての方針まで含めて、時間をかけてじっくり話し合いたいというご希望には、別枠のセカンドオピニオン外来(自由診療)をご用意しています。目的に合わせてお選びください。
そのうえで申し上げます。判断の材料が増えることで、ご家族が納得して前に進めるのであれば、それがこの受診の価値です。
「切る」と決めるにせよ、「切らない」と決めるにせよ、納得して選んだという事実が、その後のご家族を支えます。
※この記事は一般的な情報をお伝えするものです。お子さんの状態はお一人おひとり異なりますので、自己判断はなさらず、必ず医師にご相談ください。
この記事を書いた人
小森 広嗣(こもり こうじ)
小森こどもクリニック 院長/日本小児外科学会 小児外科専門医
慶應義塾大学病院 小児外科、東京都立小児総合医療センター 外科医長を経て、2018年2月に東京都国分寺市で小森こどもクリニックを開院。赤ちゃんから思春期世代まで、数多くの手術・治療に向き合ってきました。
舌小帯短縮症については、外来での日帰り切開手術を年間40〜50件行っています。また、これまで5000組を超えるお子さんの便秘診療に携わってきました。
「症状を薬で抑えるだけでなく、本当の悩みの根っこを一緒に探す医師でありたい」——それが開院以来変わらない診療の軸です。