2026年8月05日

赤ちゃんがいつも同じ方向ばかり向いている、後頭部が平らになってきた気がする——向き癖が気になり始めた保護者の方へ。家庭でできる体位変換とタミータイムのやり方、そして「1日30分」に届かないときの考え方を、小児外科専門医がお伝えします。
赤ちゃんには、好きな向きがあります
生まれて間もない赤ちゃんは、自分で寝返りを打てません。首の力もまだ弱く、楽な向き、心地よい向きが決まってしまうことがよくあります。
窓のほう、明かりのあるほう、お母さんがいつも座る側。赤ちゃんなりの理由で、同じ方向を向き続けます。
そして仰向けで寝ている時間が長いほど、同じ場所に圧力がかかり続けます。 これが向き癖による頭の形の変化です。
日本の乳児を3Dスキャナーで計測した研究では、生後3か月の時点で、斜頭症が約6割、短頭症が約2割にみられたと報告されています。めずらしいことではありません。
早い時期ほど、変わりやすい
赤ちゃんの頭は、生後まもない時期ほどやわらかく、成長も速いという特徴があります。
裏を返せば、この時期は形がつきやすい一方で、整えやすい時期でもあります。
ですから、気づいたときが始めどきです。難しいことは必要ありません。まずは、日々の向きを少しずつ変えていくことから始めます。
① 体位変換 — 4つの向きを変えていく
向き癖を和らげ、頭にかかる圧力を左右均等にすることが目的です。次の4つを、バランスよく変えていきます。
寝るときの、頭と足の向き
布団やベッドの向きを、日によって入れ替えます。赤ちゃんは光や音のするほうを向くので、頭の位置を入れ替えるだけで、自然と反対を向くようになります。
抱っこする腕
いつも同じ腕で抱いていると、赤ちゃんの向きも固定されます。左右を意識して交代します。
授乳の方向
授乳のたびに向きが決まるため、ここも左右を入れ替えます。
話しかける方向
赤ちゃんは声のするほうを向きます。あまり向かない側から話しかけてみてください。
※うつ伏せ寝は窒息の危険があるため、寝かせるときは必ず仰向けにしてください。 向き癖を直すためであっても、うつ伏せで寝かせることはしないでください。
② タミータイム — 起きているときの、うつ伏せの時間
タミータイムは、赤ちゃんが起きているときに、うつ伏せにして過ごす時間を設ける方法です。
頭・首・上半身の筋肉の発達を促し、同じ場所に圧力がかかり続けることを防ぎます。頭の形のためだけでなく、からだの発達そのものにも役立ちます。
やり方
1回1〜2分から始めてください。 慣れてきたら、1回5〜15分を1日2〜6回。1日の合計で30分以上が目安です。
必ず保護者の方が見守れる環境で、固いマットや床の上で行ってください。やわらかい布団やソファ、クッションの上では行わないでください。
そして、眠ってしまったら必ず仰向けに戻します。 タミータイムは「起きている時間」のものです。
「1日30分」に届かなくても大丈夫です
ここが、いちばんお伝えしたいところです。
30分という数字を見て、「うちの子はぜんぜんできていない」と落ち込まれる方がいます。うつ伏せにすると泣いてしまう、すぐ嫌がる、1分ももたない——そういうご相談をよく伺います。
目安の数字は、目標であって、合格ラインではありません。
1日5分しかできない日があっても構いません。今日はまったくできなかった、という日があっても構いません。やった分だけ、意味があります。
大切なのは、続けられる形を見つけることです。完璧を目指して親子ともにつらくなるより、無理のない範囲で長く続けるほうが、結果的に効いてきます。
嫌がるときは
うつ伏せが苦手な赤ちゃんは少なくありません。次のような工夫をされているご家庭があります。
・短い時間を、こまめに — 1回1分を1日に何度か
・機嫌のよい時間帯に — 授乳直後や眠い時間は避ける
・顔が見える位置に — 保護者の方が正面に寝そべり、目を合わせながら
・胸の上で — 保護者の方が仰向けになり、その胸の上でうつ伏せにする
どれが合うかはお子さんによって違います。外来では、その子に合わせたやり方を一緒に考えていきます。
ドーナツ枕について
外来でよくいただくご質問です。「どのメーカーの枕がいいですか」「高いものを買ったほうがいいですか」。
どれがよいかは、お子さんによって違います。
枕には、その子との相性があります。たまたま形や硬さが合えば、うまく向きが変わり、きれいに整っていくお子さんもいます。一方で、同じ枕がまったく合わないお子さんもいます。
「これを買えば大丈夫」という枕は、残念ながらありません。 いくつも高いものを買いそろえても、合わないものは合いません。
ですから、どのメーカーがよいかではなく、その子にとってどうかという見方をしていただきたいと思っています。そして、費用と手間のバランスを考えて、無理のない範囲で試してみる。それがドーナツ枕との、現実的な付き合い方だと考えています。
合わなければ、使わなくても構いません。枕はあくまで手段のひとつで、体位変換とタミータイムのほうが基本です。
こんなときは、一度ご相談ください
向き癖の多くは、赤ちゃんの好みや姿勢のクセによるものです。
ただ、次のような場合には、一度診察を受けていただくことをおすすめします。
・どうしても片方を向けない、向かせようとすると強く嫌がる
・首の動きに、左右で差があるように感じる
・体位変換やタミータイムを続けているのに、形の変化が気になる
・頭の形が、月齢とともに目立ってきている
首の向きに左右差がある場合、筋肉の硬さが関係していることがあります。 その場合は、向きを変えるだけでは解決しないため、診察で状態を確認します。
また、ごくまれにですが、病気が隠れていることもあります。 当院では小児外科専門医として外科的な視点も含めて確認し、必要と判断した場合には東京都立小児総合医療センター脳神経外科へご紹介しています。
「これくらいで受診していいのだろうか」と迷われる段階での受診も、歓迎しています。
家庭でのケアで足りないときは
体位変換やタミータイムを続けても改善が見られない場合、ヘルメット治療という選択肢があります。
ただ、すべてのお子さんに必要なものではありません。 多くのお子さんは、家庭でのケアだけで気にならない程度に整っていきます。
ヘルメット治療をしなくてよい場合と、始めたほうがよい場合については、別の記事で詳しくご説明しています。
▶ ヘルメット治療は必要?しなくていい場合と、始めた方がいい場合
まずは、できることから
向き癖のケアに、特別な道具は要りません。寝かせる向きを入れ替える。抱っこの腕を替える。反対側から話しかける。 今日からできることばかりです。
そして、うまくできない日があっても、それで台無しになることはありません。
気になることがあれば、いつでもご相談ください。
※この記事は一般的な情報をお伝えするものです。お子さんの状態はお一人おひとり異なりますので、自己判断はなさらず、必ず医師にご相談ください。
この記事を書いた人
小森 広嗣(こもり こうじ)
小森こどもクリニック 院長/日本小児外科学会 小児外科専門医
慶應義塾大学病院 小児外科、東京都立小児総合医療センター 外科医長を経て、2018年2月に東京都国分寺市で小森こどもクリニックを開院。赤ちゃんから思春期世代まで、数多くの手術・治療に向き合ってきました。
あたまのかたち外来では、理学療法(体位変換・タミータイム)の指導からヘルメット治療まで、お子さんの月齢と状態に合わせてご提案しています。また、これまで5000組を超えるお子さんの便秘診療に携わってきました。
「症状を薬で抑えるだけでなく、本当の悩みの根っこを一緒に探す医師でありたい」——それが開院以来変わらない診療の軸です。