2026年8月04日

赤ちゃんの頭の形が気になる、健診で向き癖を指摘された、ヘルメット治療という選択肢を知ったけれど必要なのか分からない——そんな保護者の方へ。ヘルメット治療をしなくていい場合と、始めた方がいい場合について、小児科・小児外科専門医がお伝えします。
なぜ、いま頭の形の相談が増えているのか
かつて日本では、赤ちゃんをうつぶせで寝かせることが勧められていた時期がありました。
それが変わったのは1998年(平成10年)です。乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクを下げるという知見がアメリカを中心に積み重なり、厚生省が「仰向けで寝かせましょう」と呼びかけを始めました。それから四半世紀以上、この方針は続いています。
そしてこの転換によって、日本でもSIDSは大きく減りました。多くの赤ちゃんの命が、この方針によって守られてきたということです。
一方で、仰向けで寝る時間が長くなれば、後頭部には圧力がかかり続けます。
つまり、いま頭の形のご相談が増えているのは、赤ちゃんを守るための方針が、正しく行き渡った結果でもあるのです。
「寝かせ方が悪かったのでしょうか」
外来では、この言葉をよく伺います。
けれど、そうして仰向けで寝かせてこられたことこそが、お子さんを守ってきました。 頭の形のゆがみは、その方針を守った先で起こることであって、育て方の結果ではありません。
実は、めずらしいことではありません
日本の乳児を3Dスキャナーで計測した研究があります。そこでは、生後3か月の時点で、斜頭症が約6割、短頭症が約2割にみられたと報告されています。
驚かれるかもしれません。ただ、この多くは軽度で、成長とともに気にならなくなっていきます。
大切なのは、「うちの子だけではない」ということ。そして、気づかれないまま過ごしているお子さんも少なくないということです。
頭のゆがみは、大きく3種類あります
斜頭症
上から見ると平行四辺形のように見え、耳の位置にも左右差が生じることがあります。寝るときの向き癖がある赤ちゃんに多く見られます。
短頭症(絶壁頭)
あおむけ寝の時間が長い赤ちゃんに見られ、頭の前後の長さが短くなるのが特徴です。
長頭症
頭の前後が横幅より長く、横向きの姿勢が多い赤ちゃんに見られます。
何が問題になるのか
順に整理します。
脳の成長には影響しません
頭の形のゆがみが、脳の成長や精神発達に大きな影響を与えることはないとされています。「頭の形が悪いと発達に響くのでは」というご心配は、基本的に不要です。
耳の位置は、実際にずれることがあります
斜頭症では、左右の耳の位置がずれることがあります。これは実際によく見られます。将来的に、眼鏡がかけにくい、調整しにくいといったことにつながる可能性があります。
噛み合わせ・姿勢・頭痛については
頭の形と、噛み合わせや姿勢、頭痛との関連は、さまざまなことが言われています。ただ、現時点で確立したエビデンスにはなっていません。
ですから当院では、こうしたことを理由に治療をお勧めすることはしていません。 「将来こうなるかもしれませんよ」と申し上げるのは、正確ではないからです。
日常の中では、こんなことも
帽子が合わない、ヘルメットが選びにくい——実際に、そうしたことで苦労されているご家族もいらっしゃいます。小さなことのようですが、日々の暮らしの中では確かにあることです。
そして、結局のところ「見た目」です
ほとんどは、見た目の問題です。
ただ、私は「見た目だから軽い」とは思っていません。見た目が大切にされる時代になりました。そして何より、ご家族がお子さん一人ひとりを大事に育てておられるからこそ、「少しでもよい形にしてあげたい」と願われるのだと思います。
その気持ちは、医学的な適応と同じくらい、尊重されるべきものだと考えています。
だから、決めるのはご家族です
治療するかどうかを考えるとき、当院では次の4つを一緒に確認しています。
① 病気が隠れていないか
これは医療機関の責任です。ここは必ず確認します(後述します)。
② 今、どのくらいの位置にあるか
3Dスキャナーで計測し、客観的な数値としてお伝えします。
③ どこまで整えたいか
「気にならない程度で十分」なのか、「できるだけきれいにしたい」のか。ご希望によって、選ぶ道は変わります。
④ ご家族が、どう感じておられるか
ここを最も大切にしています。ご両親の主観は、判断の材料として決して軽いものではありません。
数値だけで決めることも、気持ちだけで決めることもしません。この4つを並べたうえで、一緒に決めていきます。
ヘルメット治療を「しなくていい」場合
ゆがみが軽度で、体位変換やタミータイムで改善が見込める場合、ヘルメットは必要ありません。
赤ちゃんの頭は成長とともに形が変わります。多くのお子さんは、家庭でのケアだけで気にならない程度に整っていきます。
ヘルメットは、必要な方に、必要なだけお勧めするものだと考えています。
診察して、体位変換やタミータイムで十分だと判断すれば、そのようにお伝えします。「今は様子を見ましょう」も、きちんとした結論のひとつです。
その前に、ご家庭でできること
体位変換
向き癖を改善し、赤ちゃんの頭にかかる圧力を左右均等にすることが目的です。次の4つをバランスよく変えていきます。
・寝る際の頭と足の方向
・抱っこする腕
・授乳の方向
・話しかける方向
※うつ伏せ寝は窒息の危険があるため、寝かせるときは必ず仰向けにしてください。
タミータイム
赤ちゃんが起きているときに、うつ伏せにして過ごす時間を設ける方法です。頭・首・上半身の筋肉の発達を促し、頭の同じ箇所に圧力がかかり続けることを防ぎます。
1回1〜2分から始め、慣れてきたら1回5〜15分を1日2〜6回(目標:1日合計30分以上)行ってください。
必ず保護者の方が見守れる環境で、固いマットや床の上で行いましょう。やわらかい布団やソファの上では行わないでください。
ヘルメット治療を「始めた方がいい」場合
体位変換やタミータイムを続けても改善が見られない場合は、ヘルメット治療が選択肢になります。重度のゆがみは自然治癒が難しいという研究結果もあります。
対象となるのは、生後3〜4か月以降(首がすわった頃)のお子さんです。
ヘルメットは「締めつける」装置ではありません
誤解の多い点なので、ここで触れておきます。
ヘルメットは、頭に圧力をかけて変形させるものではありません。 平らになった部分に空間をつくり、赤ちゃん自身の成長する力を原動力として、自然な形への改善を促す仕組みです。
治療として整ってきた歴史があります
ヘルメット治療は、1998年に米国で医療機器として承認され、日本では2018年に承認されました。日本ではまだ広く知られているとは言えませんが、安全性についての知見が積み重なり、受けられる医療機関も増えてきました。
当院では日本製の頭蓋形状矯正ヘルメット「ベビーバンド」を使用し、3Dスキャナーで一人ひとりの頭の形を計測してオーダーメイドで制作します。装着は1日23時間、6か月前後にわたって続けます。
時期のこと
推奨月齢は3〜6か月です。頭の成長が著しいこの時期に始めるほど、短い期間で効果が期待できます。
7か月以降は治療期間が長くなる傾向があり、治療目標に達しない場合もあります。
外来では、適応の時期を過ぎてからご相談に来られる方にもお会いします。「もっと早く知っていれば」「治しておきたかった」——そうお話しになるご家族もいらっしゃいます。
だからこそ、時期のことは正確にお伝えしておきたいと思っています。
ただし、急いで決めていただく必要はありません。 大切なのは、正しい情報を知ったうえで、ご家族が納得して決めることです。だからこそ、迷っている段階で一度診察を受けていただきたいと考えています。判断の材料が増えれば、決めやすくなります。
まれに、病気が隠れていることがあります
ほとんどは向き癖による変形です。ただしまれに(0.04〜0.1%程度)、頭蓋縫合早期癒合症などの病気が隠れていることがあり、その場合は手術が必要になることもあります。
当院では、小児外科専門医として外科的な視点も含めてお子さんの状態を確認します。東京都立小児総合医療センター脳神経外科と連携しており、脳神経外科専門医の診察が必要と判断した場合には、迅速にご紹介します。
「病気ではないことを確かめる」こと自体に、意味があります。 見た目のことを考えるのは、そのあとです。
費用について
ヘルメット治療は35万円(税込)です。現金・クレジットカード同額で、3Dスキャン撮影費用、ヘルメット制作費、治療終了までの診察代が含まれます。初診時のカメラ撮影代として別途5,000円がかかります。
医療費控除の対象です。医師が常に介在する治療のため、確定申告時に申請が可能です(最終的な判断は各税務署によります)。
リスク・副作用
ヘルメットの使用に伴い、皮膚炎(発赤、ただれ)や皮膚の損傷(水疱、剥がれ、出血等)が生じる場合があります。装着中は皮膚の状態を確認しながら進めます。
なお当院では、治療を始められた方に、日々の相談ができる専用のLINEをご用意しています(治療中の方専用です)。皮膚のことで迷ったとき、次の診察を待たずにご相談いただけます。
▶ ヘルメット治療と皮膚トラブル|夏でも冬でも起こる、その付き合い方
6か月を、どう過ごすか
1日23時間、6か月間。決して短い期間ではありません。
そのうえで、お伝えしたいことがあります。
ヘルメットは、恥ずかしいものではありません。 病気の印ではなく、お子さんの将来のためにご家族が考えて選び、続けている証です。
ベビーバンドには、外出しやすいかわいらしいデザインが複数用意されています。お洋服に合わせて選んだり、ご家族なりに楽しんで過ごされている方もいらっしゃいます。せっかくの6か月です。堂々と、できれば少し楽しみながら過ごしていただきたいと思っています。
そして、堂々と外出できることには、治療のうえでも意味があります。人目が気になって外では外してしまう——それが続くと、装着時間が足りなくなります。気持ちが軽いことが、そのまま結果につながります。
6か月後、卒業の日が来ます。そのとき残るのは、整った頭の形だけではありません。「この子のために、家族で決めて、やりきった」という時間が残ります。それは、これから先の子育てでも、きっと効いてきます。
「相談だけ」で受診してください
「頭の形が気になるけれど、治療が必要かわからない」——その段階での受診を歓迎しています。
診察したうえで、病気が隠れていないかを確認し、今どのくらいの位置にあるかをお伝えします。そのうえで、体位変換やタミータイムで十分なのか、ヘルメットを検討した方がよいのかを、ご家族のお気持ちも伺いながら一緒に考えます。
「必要ありません」という結論になることも、もちろんあります。
ご家族が納得して決められるように、判断の材料をお渡しすること。それがこの外来の役割だと考えています。
※この記事は一般的な情報をお伝えするものです。お子さんの状態はお一人おひとり異なりますので、自己判断はなさらず、必ず医師にご相談ください。
この記事を書いた人
小森 広嗣(こもり こうじ)
小森こどもクリニック 院長/日本小児外科学会 小児外科専門医
慶應義塾大学病院 小児外科、東京都立小児総合医療センター 外科医長を経て、2018年2月に東京都国分寺市で小森こどもクリニックを開院。赤ちゃんから思春期世代まで、数多くの手術・治療に向き合ってきました。
あたまのかたち外来では、理学療法(体位変換・タミータイム)の指導からヘルメット治療まで、お子さんの月齢と状態に合わせてご提案しています。また、これまで5000組を超えるお子さんの便秘診療に携わってきました。
「症状を薬で抑えるだけでなく、本当の悩みの根っこを一緒に探す医師でありたい」——それが開院以来変わらない診療の軸です。