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【小児外科医監修】子どもの傷跡で後悔しないために。正しい処置・治し方 完全ガイド

  • 公開:2025年7月21日
  • 更新:2025年7月23日
  • 小児外科

目次

序章:はじめに – “完璧”を目指さない、子どもの傷ケアという「現実解」

 

公園で転んだ、テーブルの角にぶつけた、お友達と遊んでいて擦りむいた――。

お子さんが思いがけない怪我をするたび、親御さんの心はヒヤッと音を立てるのではないでしょうか。「痛かったね」「大丈夫?」と声をかけながらも、頭の中では「この傷、跡に残らないだろうか」「どう手当てするのが一番いいんだろう?」という不安が渦巻いていることと思います。

 

一日でも早く、そして何よりきれいに治してあげたい。その一心でスマートフォンを手に取り、情報を検索する。すると、「湿潤療法が良い」「いや、感染が怖い」「消毒は絶対ダメ」「毎日しっかり洗うべき」…そんな断片的な情報が洪水のように押し寄せ、一体どれが我が子にとっての正解なのか、かえって混乱してしまう。そんな経験をお持ちの方も少なくないでしょう。

 

この記事が目指すもの:検索の旅の終わり、そして安心できる道標

 

この『専門ガイド』は、そんな情報の洪水の中で途方に暮れる親御さんのために、小児外科医としての専門的知見と数多くの臨床経験に基づき、信頼できる「一つの道標」を示すことを目指して執筆しています。

 

ここでお伝えしたいのは、単なる手当てのテクニックだけではありません。お子さんの傷と向き合う上での、もっと根本的な「考え方」です。

 

この記事を最後までお読みいただくことで、ご家庭での創傷ケアに対する漠然とした不安が解消され、自信を持って、そして少しだけ肩の力を抜いて、お子さんの回復を見守れるようになる。皆様の「検索の旅」が、この記事で終わりを迎えること。それが私たちの願いです。

 

なぜ、子どもの傷ケアは「理想通り」にはいかないのか?

 

傷をきれいに治すための「理想的な方法」は、医学的に確立されています。しかし、それをそのままお子さんに適用しようとすると、多くのご家庭で壁にぶつかります。

 

なぜなら、お子さんは小さな「大人」ではないからです。

 

✔️じっとしていてくれないため、ガーゼや絆創膏はすぐにズレてしまう。
✔️好奇心から傷を触ったり、せっかく貼った保護材を自分で剥がしてしまったりする。
✔️お薬の味や匂いを嫌がったり、処置そのものに恐怖を感じて泣き叫んだりすることもある。
✔️お風呂で傷を洗うのを断固として拒否することも、日常茶飯事です。

 

こうしたお子さんならではの反応は、成長の過程としてごく自然なことです。しかし、親御さんにとっては「ちゃんとケアしてあげたいのに、できない」というジレンマとストレスの原因になりがちです。

 

本ガイドの基本スタンス:「0か100か(成功か、失敗か)」ではない、ご家庭ごとの「最適解」を共に見つける

 

そこで、私がこの記事を通じて最も強くお伝えしたいのは、「完璧を目指さなくていい」ということです。

 

子どもの創傷ケアは、「100点満点の理想的なケアができたか、できなかったか」という「0か100か(できたか、できなかったか)」の思考に陥る必要はまったくありません。「理想通りにできなかった」とご自身を責める必要もありません。

 

大切なのは、医学的な原理原則を正しく理解した上で、お子さんの年齢や性格、傷の状態、そしてご家庭のライフスタイルといった、あらゆる要素を考慮に入れながら、「今の私たちにできる、ベターな選択は何という視点を持つことです。

 

夜寝ている間だけでも保湿を頑張る、お風呂の時だけはしっかり洗う、それだけでも素晴らしい一歩です。私たちはこれを、ご家庭ごとの「現実解」あるいは「最適解」と呼んでいます。

 

このガイドでは、その「最適解」をご自身の力で見つけ出すための、医学的な知識と具体的な選択肢を余すところなくお伝えしていきます。そして、もし道に迷ったときには、いつでも私たち専門家がその道のりを共に歩む「伴走者」として、皆さんのすぐそばにいることを忘れないでください。

 

それでは、さっそく傷が治る体の不思議なメカニズムから、一緒に見ていきましょう。

 

小児外科医の傷の手当

第1章:すべての基本となる「傷が治る仕組み」

 

「なぜ、傷の手当てをするのでしょうか?」

 

この問いに、多くの方は「ばい菌が入らないようにするため」とお答えになるかもしれません。もちろんそれは正解の一つです。しかし、創傷ケアの本当の目的は、それだけではありません。

 

最も大切な目的は、お子さんの体が本来持っている「自分で治ろうとする力(自己治癒能力)」を最大限に引き出し、その働きをサポートしてあげることにあります。そのためには、まず私たちの体の中で、傷がどのように治っていくのか、その素晴らしいプロセスを知ることから始めましょう。

 

1-1. 創傷治癒のプロセス:体の中で起きていること

 

皮膚に傷ができた瞬間から、体内では壮大な「復旧工事」が自動的にスタートします。この工事は、大きく分けて3つの段階で進んでいきます。

 

第1段階:止血と炎症期(=火事の鎮火と現場整理)

 

怪我をすると、まず出血を止めるために血液中の「血小板」という成分が集まってきて、傷口を塞ぎます。同時に、傷口から侵入した細菌や、壊れてしまった細胞の残骸などを掃除するために、白血球などの免疫細胞が現場に駆けつけます。

 

このとき、現場では「炎症」という反応が起こります。傷の周りが少し赤くなったり、熱を持ったり、腫れたりするのは、この免疫細胞たちが活発に働いている証拠であり、復旧工事が始まった正常なサインと言えるでしょう。

 

第2段階:増殖期(=新しい組織の建設)

 

現場の掃除がある程度終わると、次はいよいよ新しい組織を作る「建設」の段階に入ります。線維芽細胞(せんいがさいぼう)という大工さんのような細胞が、コラーゲンなどの資材を使って、傷を埋めるための土台となる「肉芽組織(にくげそしき)」という、きれいなピンク色の組織を作ります。

 

そして、その土台の上を、皮膚の元になる「表皮細胞」がじわじわと移動してきて、傷の表面を覆っていきます。この肉芽組織をいかに良い状態に保ち、表皮細胞がスムーズに移動できる環境を整えるかが、傷をきれいに治すための最大の鍵となります。

 

第3段階:成熟期(=完成と安定化)

 

傷口が完全に皮膚で覆われてふさがった後も、実は皮膚の下では「リフォーム」作業が続いています。バラバラに作られたコラーゲンの線維がきれいに再構築され、時間をかけて強度を増していきます。

 

最初は赤く盛り上がっていた傷跡が、数ヶ月から数年という時間をかけて、徐々に白く、平らで、柔らかいものに変化していくのは、この成熟期のおかげなのです。

 

1-2. 治癒を妨げる最大の敵:なぜ「ばい菌」と「乾燥」が問題なのか

 

この見事な復旧工事を妨害し、遅らせてしまう「2大トラブルメーカー」が存在します。それが「ばい菌(感染)」と「乾燥」です。

 

ばい菌(感染):工事現場に居座る、招かれざる客

 

傷口に多くのばい菌が残っていると、私たちの体は「建設」作業に取り掛かることができません。まずはばい菌を追い出すことに全力を注ぐため、いつまでも「炎症期(現場整理)」が続いてしまいます。

 

ズキズキとした痛みが続いたり、膿(うみ)が出たりするのは、ばい菌と体の免疫細胞が激しく戦っている証拠です。この戦いが長引けば長引くほど、復旧工事の開始は遅れ、結果として傷跡が残りやすくなると考えています。

 

乾燥:細胞の動きを止める「カラカラの大地」

 

従来の常識では「傷は乾かして、かさぶたを作って治す」と考えられていました。しかし、これは大きな誤解です。

 

実は、新しい皮膚を作る「表皮細胞」をはじめ、傷を治すために働く細胞たちは、潤いのある環境でしか活動できません。傷が乾燥してしまうと、細胞は動けなくなってしまいます。

 

「かさぶた」は、一見すると傷を守るフタのように見えますが、治癒の観点から言えば、それは細胞の行く手を阻む「分厚いバリケード」でしかありません。細胞たちは、そのバリケードの“下”を、わざわざ遠回りして進まなければならず、治癒に時間がかかってしまいます。そして、かさぶたが剥がれるときに、新しくできかけた皮膚まで一緒に剥がしてしまうリスクもあるのです。

 

1-3. 湿潤療法(モイストヒーリング)がなぜ有効なのか?

 

そこで登場するのが「湿潤療法(モイストヒーリング)」という考え方です。

 

湿潤療法とは、この2大トラブルメーカーである「ばい菌」と「乾燥」をコントロールし、体が本来持つ治癒能力を最大限に発揮できる「最適な作業環境」を、私たちが人為的に作ってあげるアプローチです。

 

具体的には、以下の2つを徹底します。

 

1. しっかり洗浄することで、工事の邪魔者である「ばい菌」の数を減らす。

2. 適切なもので傷を覆うことで、「乾燥」を防ぎ、細胞が最も活発に動ける潤い(湿潤環境)を保つ。

 

この最適な環境下では、傷を治す細胞たちがスムーズに、そしてスピーディーに働くことができます。その結果として、「より早く」「よりきれいに(傷跡が残りにくく)」「痛みを少なく」治癒を進めることが可能になるのです。

 

次の章では、この「洗浄」と「湿潤環境の維持」という2つの原理原則を、ご家庭でどのように実践していくか、具体的な方法を詳しく解説していきます

 

第2章:家庭でできる創傷ケア、実践の3本柱

 

第1章では、傷が治る体の素晴らしい仕組みと、その邪魔をする「ばい菌」「乾燥」について学びました。この章ではいよいよ、その原理原則を日々の実践に落とし込んでいきます。

 

どんなに立派な家を建てようとしても、土台がグラグラでは意味がありません。創傷ケアも同じです。これからお話しする「洗浄」「被覆材」「保湿」という3つの柱は、相互に関連し合っていますが、特にすべての基本となる「土台」の重要性を心に留めながら読み進めてください。

 

2-1. 【最重要】洗浄:すべての治療の「土台」

 

もし、創傷ケアで最も大切なことを一つだけ挙げるとすれば、私は迷わず「洗浄」と答えます。これが、治療全体の成否を分ける、最も重要な「土台作り」です。

 

なぜ「消毒」ではなく「洗浄」なのか?

 

「けがをしたら、まず消毒」という考えは、一昔前の常識でした。しかし現在、医療の現場では、特別な場合を除いて傷の消毒を積極的には行いません。なぜなら、消毒薬は、ばい菌を殺すと同時に、傷を治そうと頑張っている私たちの正常な細胞まで傷つけてしまう「諸刃の剣」だからです。

 

私たちが目指すのは、ばい菌を根絶やしにすることではなく、治癒の邪魔にならないレベルまで数を減らすことです。そのためには、石鹸と流水で物理的に洗い流す「洗浄」が、最も効果的で、かつ自分の細胞に優しい最良の方法と言えるでしょう。

 

外来でよく聞かれる質問:「しみるのが可哀想で…」への答え

 

「傷を洗うと痛がって泣くので、可哀想でできません」。診察室で、本当に多くの親御さんからこのお悩みを聞きます。そのお気持ちは痛いほどよく分かります。

 

しかし、ここで少し視点を変えてみましょう。今、洗うことでお子さんは一瞬泣いてしまうかもしれません。ですが、もし洗わずにばい菌が増えてしまったら、炎症が長引いてズキズキとした痛みが何日も続き、結果としてお子さんをもっと長く苦しませてしまう可能性があるのです。

 

今日の数分間の涙は、未来の数日間の痛みと傷跡のリスクを減らすための、いわば「先行投資」であると、私たちは考えています。

 

具体的な洗い方:石鹸の泡と流水だけで十分

 

特別なものは必要ありません。ご家庭にあるもので、最高の洗浄ができます。

 

1. 準備:まず、親御さんがご自身の手をきれいに洗います。

2. 泡立て: 石鹸やボディソープをよく泡立てます。固形石鹸でも液体ソープでも構いません。

3. 優しく洗う: その泡をクッションにして、傷口とその周りを優しく撫でるように洗います。ゴシゴシこする必要はありません。泡が汚れやばい菌を浮かせてくれます。

4. しっかり流す: シャワーの流水で、泡が完全になくなるまで数分間、しっかりと洗い流します。これが最も重要なプロセスです。

 

痛がるときの工夫と心のケア

 

お子さんが協力的でいられるよう、少し工夫をしてみましょう。お風呂に入る30分〜1時間ほど前に、医師から処方された痛み止めがあれば使っておくのも一つの手です。

 

また、「バイキンマンをやっつけよう!」などと遊びの要素を取り入れたり、何より親御さん自身が「大丈夫、すぐに終わるよ」とリラックスした態度で臨んだりすることが、お子さんの安心につながります。

 

2-2. 【誤解が多い】被覆材(ばんそうこう):正しい選択と使い方

 

洗浄で土台をきれいにしたら、次はその上に「適切な保護シート」をかけて、第1章でお話しした湿潤環境を作っていきます。ここで多くのご家庭が悩むのが、「キズパワーパッド®のような高機能なものと、昔ながらのガーゼ、どちらがいいの?」という問題です。

 

ハイドロコロイド材(キズパワーパッド®など)の長所と「重大な注意点」

 

キズパワーパッド®に代表されるハイドロコロイド材は、傷から出る滲出液(しんしゅつえき)を吸収してゲル状になり、非常に優れた湿潤環境を保ってくれる素晴らしい製品です。交換回数が少なく済み、防水性があるなど多くのメリットがあります。

 

しかし、「どんな傷にも使える魔法の絆創膏」ではありません。使い方を誤ると、かえって危険な場合があります。

 

これらのパッドの最大の特徴は「密閉」することです。もし、傷の洗浄が不十分で、土や砂、ばい菌が残ったまま密閉してしまうと、パッドの中は暖かく、栄養も豊富な、ばい菌にとって最高の「温室」になってしまいます。結果、中で菌が爆発的に増殖し、重篤な感染症を引き起こすリスクがあるのです。

 

【警告】以下の傷には絶対に使用しないでください

 

✔️砂、泥、ガラス片など、異物が入っている可能性のある傷
✔️すでに赤く腫れている、ズキズキ痛む、熱を持っている、膿が出ているなど、感染のサインがある傷
✔️動物や人に噛まれた傷

 

昔ながらの「ワセリン+ガーゼ」が今なお有効な理由

 

一見、古風に見えるこの方法ですが、実は非常に理にかなった、安全性の高いケアです。

 

【長所】

✔️どんな傷にも安心して使える汎用性。
✔️ 傷を密閉しないため、感染のリスクが低い。
✔️ガーゼを交換するたびに傷の状態を直接観察できる。
✔️非常に安価である。

 

【短所】

✔️乾きやすいため、こまめなワセリンの塗布やガーゼ交換が必要になることがある。
✔️防水性がないため、水仕事やお風呂の際に工夫が必要。

 

結局どちらが良い?:傷の状態で選ぶ「オーダーメイド」の考え方

 

「では、結局どちらを選べばいいのですか?」という問いへの答えは、「正解は一つではない」です。大切なのは、傷の状態とご家庭の状況に合わせて「オーダーメイド」で考えることです。

 

ハイドロコロイド材が向いているケース:

 

洗浄がしっかりできており、感染の心配がない「きれいな擦り傷」で、お子さんが頻繁に触らない場合など。

 

ワセリン+ガーゼが向いているケース:

 

少し汚れた傷の初期、感染が心配な傷、滲出液が多い傷、そして判断に迷うほとんどすべての傷。

 

究極的には、「どちらの方法が、お子さんにとって、またケアをする保護者の方にとって、より長く適切な湿潤環境を維持しやすいか」という視点で選ぶのが正解です。

 

2-3. 【治癒を加速する】保湿:治癒環境を維持するということ

 

洗浄と被覆が終わったら、最後の柱は「保湿」です。これは、治癒のプロセスをスムーズに進めるための、いわば「アクセル」の役割を果たします。

 

「理想のケア」と「現実のケア」

 

理想を言えば、特にきれいに治したい顔の傷などでは、ガーゼが乾いてきたらその都度ワセリン(プロペト、ワセリンなど)を追加で塗り、常にしっとりとした状態を保つのがベストです。最初の1週間、朝昼晩とケアをしていただいたり、学校の保健室の先生にご協力をお願いしたりすることもあります。

 

しかし、これはあくまでも理想論です。じっとしていられないお子さんの場合、常に完璧な保湿・保護環境を維持し続けるのは、非常に難しいことです。

 

「0か100か(完璧か、完璧でないか)」で考えない、柔軟な目標設定

 

ここで序章のメッセージを思い出してください。「完璧を目指さなくていい」のです。「100点満点のケアができないから、もうダメだ」と考える必要は全くありません。

 

お子さんがどうしてもガーゼを取ってしまうなら、諦めずにワセリンだけでもこまめに塗ってあげる。

 

早く治したい!なら「一生懸命に手当をする!」、ゆっくりでも我が子のペースで治す、、なら「できる範囲で手当をする」と目標を決めて、それに合わせて、それぞれのペースで治療目標を立てることです

 

✔️日中のケアが難しいなら、「夜、寝ている間だけはしっかり保湿・保護する」と割り切る。
✔️「100」を目指すのではなく、「10」や「20」、あるいは「70」や「80」でも、やれる範囲で頑張ることが何より素晴らしいのです。

 

「できていないこと」に目を向けるのではなく、「これだけできている」とお子さんとご自身の頑張りを認めてあげてください。その積み重ねが、お子さんの傷を癒す一番の力になると、私は考えています。

 

第3章:【保護者のお守り】小児外科医が教える「病院へ行くべきか」の判断基準

 

第2章までで、ご家庭での基本的なケア方法はご理解いただけたかと思います。しかし、親御さんにとって最も大きな不安は、「そもそもこの傷、お家で様子を見ていて本当に大丈夫なの?」という点ではないでしょうか。

 

「このくらいで病院に連れて行ったら、大袈裟だと思われるかもしれない…」
「でも、もし手遅れになったらどうしよう…」

 

そのように悩んでしまうのは、当然のことです。この章は、そんな不安な気持ちに寄り添い、冷静な判断をサポートするための「お守り」です。もちろん、最終的な判断に迷ったときは、ためらわずに私たち専門家を頼ってください。それが最も安全な選択であることは、まず大前提としてお伝えしておきます。

 

3-1. 自宅で様子を見て良い傷、すぐに受診すべき傷

 

多くの場合、ご家庭でのケアで問題なく治癒に向かう傷はたくさんあります。

 

自宅でケアを続けて良い傷の目安

 

✔️浅い擦り傷で、出血がすぐに止まったもの
✔️小さな切り傷で、傷口がほとんど開いていないもの
✔️下記の「緊急受診が必要なサイン」のいずれにも当てはまらないもの

 

しかし、これらの傷であっても、数日経っても改善が見られない、あるいは悪化しているように見える場合は、診療時間内に一度受診していただくのが安心です。

 

3-2. 緊急受診が必要な5つのサイン

 

これから挙げる5つのサインのいずれかが見られる場合は、診療時間内であればもちろん、**たとえ夜間や休日であっても、救急外来の受診をためらわないでください。

 

サイン1:出血が止まらない

 

清潔なガーゼやタオルなどで傷口を直接、5分から10分ほどしっかりと圧迫しても、血が止まらない、あるいは圧迫をやめるとすぐに血がジワジワと滲み出してくる場合は、比較的太い血管が傷ついている可能性があります。

 

サイン2:傷が深い、または大きく開いている

 

傷口を覗き込んだとき、皮膚の下にある黄色い脂肪の組織や、赤黒い筋肉の組織が見えている場合は、傷が深くまで達しています。また、傷がパックリと開いてしまっている場合も同様です。これらの傷は、きれいに治すために洗浄や縫合(ほうごう)といった外科的な処置が必要になる可能性が非常に高いと言えるでしょう。

 

サイン3:異物(ガラス、砂利、木片など)が残っている

 

洗浄しても、傷の中にガラスの破片や大きな砂利、木のとげなどが明らかに残っているのが見える場合、無理にご家庭で取ろうとしないでください。かえって奥に押し込んでしまったり、周りの組織を傷つけたりする危険があります。医療機関で適切に除去する必要があります。

 

サイン4:動物や人に噛まれた

 

犬や猫、あるいは人間の子どもに噛まれてできた傷は、見た目がどんなに小さくても非常に危険です。動物や人の口の中には、通常の怪我では感染しにくい特殊な細菌がたくさんいます。これらの菌が牙や歯によって皮膚の深くに注入されると、深刻な感染症(蜂窩織炎など)や、破傷風といった命に関わる病気を引き起こすリスクがあります。必ず医療機関を受診してください。

 

サイン5:感染の兆候がある

 

怪我をしてから半日〜数日経って、以下のサインが見られた場合は、傷の中で細菌が増殖し「感染」を起こしている可能性が高い状態です。

 

✔️赤み: 傷のフチだけでなく、周りにまで赤みが広がっている。
✔️腫れ: 傷の周りがパンパンに腫れあがっている。
✔️熱感: 傷の周りを触ると、明らかに他の皮膚よりも熱い。
✔️痛み: 安静にしていてもズキズキと脈を打つように痛む、痛みが時間とともに強くなる。
✔️膿(うみ): 傷から出る液体が、透明や薄い黄色のサラサラした「滲出液」ではなく、ドロッとした黄色や緑色の不透明な液体に変わった。

 

これらのサインは、体が「助けて!」と叫んでいる危険信号です。速やかに専門家の評価を受ける必要があります。

 

3-3. 休日や夜間の場合、どうすればいいか?

 

お子さんの怪我は、時にクリニックが閉まっている時間に起こります。そんな時、パニックにならずに行動するための知識です。

 

✔️まずは相談窓口へ電話する

 

救急車を呼ぶべきか、自力で病院へ行くべきか、それとも朝まで待っても良いのか、判断に迷う場合は、専門の相談窓口を利用しましょう。スマートフォンの連絡先に登録しておくことをお勧めします。

 

✔️こども医療でんわ相談(#8000):

 

小児科の医師や看護師が、お子さんの症状に応じた適切な対処の仕方や、受診する病院についてアドバイスをくれます。

 

✔️救急安心センター事業(#7119):

 

医師、看護師、相談員がお話を聞き、救急車が必要か、急いで病院に行った方がよいか、といった緊急度を判断してくれます。(※実施地域が限られます)

 

✔️救急外来を受診する際の心構えと準備

 

救急外来は、重症の患者さんから優先的に診察するのが原則です。そのため、傷の状態によっては待ち時間が長くなることもあります。

 

受診する際は、慌てずに以下の情報を伝えられるよう、頭の中で整理しておくと診察がスムーズに進みます。

 

✔️いつ、どこで、何をして怪我をしたか
✔️どんな応急処置をしたか(いつ、何を塗った、など)
✔️お子さんの持病やアレルギーの有無
✔️普段飲んでいる薬があれば、その名前(お薬手帳があれば持参)
✔️最後の破傷風ワクチンはいつ接種したか

 

第4章:傷が治った”あと”のケア – 傷跡をよりきれいに保つために

 

傷口が乾き、新しい皮膚で覆われると、親御さんとしては「治った!これで一安心」と思われることでしょう。毎日の洗浄やガーゼ交換から解放され、ホッとするお気持ちはよく分かります。

 

しかし、本当の意味で「傷をきれいに治す」というゴールを目指すのであれば、実はここからが非常に大切な第二章の始まりとも言えるのです。なぜなら、ふさがったばかりの皮膚は、いわば「完成したばかりの新築の家」のようなもの。まだ非常にデリケートで、外部からの刺激にとても弱い状態だからです。

 

4-1. なぜ傷跡が残るのか?

 

第1章でお話しした「成熟期」を思い出してください。傷がふさがった後も、皮膚の下ではコラーゲン線維の再構築という「リフォーム作業」が、数ヶ月から数年単位で続いています。このデリケートな時期に、不適切な刺激が加わることで、主に2つの「傷跡トラブル」が起こりやすくなります。

 

トラブル1:炎症後色素沈着(茶色っぽい跡)

 

新しい皮膚は、紫外線に対する防御力が非常に低い状態です。この時期に紫外線を浴びてしまうと、メラニンを作る細胞が過剰に反応し、傷跡が茶色や黒っぽいシミのようになってしまうことがあります。

 

トラブル2:肥厚性瘢痕・ケロイド(赤くミミズ腫れのような盛り上がり)

 

傷を治そうとする体の反応が、時に過剰になってしまうことがあります。特に、膝や肘などの関節、胸や肩周りといった、皮膚がよく引っ張られる(専門的には「張力」がかかる)部位では、コラーゲンが過剰に作られ続け、傷跡が赤く硬く盛り上がってしまうことがあるのです。これを肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)やケロイドと呼びます。

 

これらのトラブルを防ぎ、皮膚のリフォーム作業を静かに見守ってあげることが、治癒後のケアの最大の目的なのです。

 

4-2. 家庭でできる3つの傷跡ケア:「保湿」「遮光」「保護」

 

ご家庭でできるケアは、決して難しいことではありません。以下の3つの柱を、できる範囲で続けていくことが、数年後のお子さんの皮膚にとって大きなプレゼントになります。

 

ケア1:保湿(皮膚のバリア機能を高める)

 

新しい皮膚は乾燥しやすく、バリア機能が未熟です。乾燥すると痒みが出やすく、お子さんが掻き壊してしまうことで、さらなる皮膚トラブルの原因にもなります。

 

【方法】

 

市販の保湿クリームやローション(ヘパリン類似物質やセラミド配合のものなど、低刺激性の製品が望ましい)を、1日1〜2回、傷跡に優しく塗り込んであげましょう。

 

ケア2:遮光(色素沈着を防ぐ)

 

色素沈着を防ぐために、紫外線対策は必須です。

 

【方法】

 

✔️日焼け止め:外出時は、傷跡に子ども用の低刺激な日焼け止めを必ず塗りましょう。石鹸で落とせるタイプが便利です。

✔️物理的な遮光: UVカット機能のある衣類で覆ったり、後述する保護テープを貼ったりすることも、非常に有効な紫外線対策となります。

 

ケア3:保護(テープによる安静化)

 

傷跡の盛り上がりを防ぐために、最も効果が期待できるケアの一つが、テープによる保護です。これは、傷跡にかかる物理的な刺激や張力を軽減し、皮膚を「安静」な状態に保つことを目的としています。

 

【方法】

 

✔️市販の医療用紙テープ(サージカルテープ)や、シリコーン製のジェルシートなどを、傷跡に沿って貼ります。
✔️テープは毎日貼り替える必要はありません(ただし、お子さんの場合にはテープかぶれの可能性があるため、入浴時に毎回一度剥がして、皮膚の状態を確認をすることが推奨です)。大きなお子さんや成人の場合(あるいは慣れてきたら)数日間貼り続け、自然に剥がれてきたり、汚れたりしたら交換する程度で十分です。ただし、剥がす際は皮膚を傷つけないよう、優しくゆっくりと剥がしましょう。
✔️関節など、よく動かす部位ほど、このテープ保護の重要性は高まります。

 

4-3. このケアはいつまで続けるべきか?

 

「このケア、一体いつまで続ければいいの?」というご質問もよく受けます。

明確なゴールは、「傷跡の赤みが完全に消え、周りの皮膚の色と同じような白っぽい色に落ち着くまで」です。

 

具体的な期間の目安としては、

 

✔️最低でも3ヶ月〜半年間
✔️深い傷や、肥厚性瘢痕になりやすい体質のお子さんの場合は、1年以上

 

続けることが望ましいと考えています。

 

もちろん、これも「0か100か(やるか、やらないか)」で考える必要はありません。

 

「今日はテープを貼り忘れた」「日焼け止めを塗り忘れた」とご自身を責めず、また次の日から再開すれば大丈夫です。焦らず、お子さんの成長を見守るように、気長に傷跡の成熟と向き合ってあげてください。

 

✔️夜だけでも貼る(日中だけ)

✔️お出かけする時だけ貼る

✔️数時間でも貼る

✔️1週間でも貼る(まだ接着の弱い傷の保護のため)

✔️1ヶ月でも貼る

 

としても、十分意味があると思います。完璧理想論(理屈)にとらわれず、できる範囲で行うことが大事です(ただし、より綺麗にする!!と決めたら長い時間の貼付を行うことも覚悟、決心ですね!)

 

もう一つの目安は、どこまで綺麗にしたいか、というゴールを決めて、それに合わせて、家族ぐるみで頑張る姿勢が大事です。

 

しかし、その長い道のりが、将来のお子さんへの何よりの贈り物になるはずです。

 

終章:おわりに – 不安な道のりを共に歩む「伴走者」として

 

この長いガイドを、最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

 

お子さんの突然の怪我に、どれほど心を痛め、不安な思いで情報を探しておられたことでしょう。この記事が、そんな皆様の心に少しでも寄り添い、確かな道標となることができたなら、これに勝る喜びはありません。

 

改めて伝えたいこと:完璧なケアよりも、愛情ある試行錯誤を

 

もし、このガイドから何か一つだけ持ち帰っていただけるとしたら、それは「創傷ケアに、たった一つの絶対的な正解はない」ということです。

 

医学的な原理原則は存在します。しかし、それをどう実践するかは、お子さんの個性やご家庭の生活スタイルによって千差万別です。大切なのは、教科書通りの「完璧なケア」を目指して親子で疲弊してしまうことではありません。

 

「今日はうまく洗えたね」
「夜だけでも、しっかりガーゼを守れたね」
「テープを嫌がったから、保湿だけでも念入りにしておこう」

 

そんな日々の愛情のこもった試行錯誤こそが、お子さんにとって何よりの「最高の治療」なのだと、私は心から信じています。どうか「0か100か(できたか、できなかったか)」でご自身を評価せず、できていることに目を向け、その努力を誇りに思ってください。

 

専門医の役割:迷った時の「評価」と「軌道修正」

 

では、私たち専門医の役割は何でしょうか。

それは、皆様が日々行っているその素晴らしいケアが、医学的に見て正しい方向に進んでいるかを確認し、客観的な「評価」を下すことです。そして、もし傷の治りが思わしくなく、少しだけ軌道がズレてしまっているときには、その原因を探り、より良い方向へ進むための「軌道修正」を一緒に行うことです。

 

私たちは、一方的に指示を出す監督や審判ではありません。皆様の隣で、時に汗をかき、時に悩みながら、ゴールまで一緒に走り続ける「伴走者」でありたいと考えています。

 

お子さんの体には、私たちが想像する以上に、力強く、素晴らしい治癒能力が備わっています。今は赤く痛々しい傷も、適切なケアと時間さえあれば、必ず快方に向かいます。そして多くの場合、お子さん自身は傷のことなどすっかり忘れ、今日の失敗も明日の冒険の糧にして、たくましく成長していくことでしょう。

 

もし、この長いケアの道のりの途中で、

 

「これで本当に合っているのかな?」
「傷の治りが、なんだかおかしいかもしれない…」

 

と不安になったり、立ち止まってしまったりした時は、どうか一人で悩みを抱え込まないでください。

 

そんな時は、このガイドをもう一度読み返していただき、そして、いつでも当院の扉を叩いてください。私たちがお子さんの傷の状態を正しく評価し、ご家族にとっての次の最適な一歩を、また一緒に考えていきます。

 

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院長 小森 広嗣
記事監修
院長 小森 広嗣
(こもり こうじ)

慶應義塾大学医学部卒業
小児外科学会専門医、小児外科指導医、医学博士

小森こどもクリニックでは、成長の感動や喜びをお子さん ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育ができる社会を創ることをビジョンに活動しています。

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