2018年1月07日

「浣腸は、いつまで続けるのだろう」「この子は、いつか自分の力で出せるようになるのだろうか」。便秘の治療が長くなると、お母さん・お父さんの胸には、こうした問いが何度も浮かびます。
その問いに向き合うとき、当院がいつも立ち返る場所があります。鎖肛(さこう)という病気の子どもたちの治療です。生まれつき排便の力にハンディがある子どもたちが、何年もかけて自分の力で出せるようになっていく道のりには、ふつうの便秘のお子さんにもそのまま役立つ考え方が詰まっています。
鎖肛(さこう)とは — 生まれつき「出す力」にハンディがある病気
鎖肛(さこう)は、生まれつき肛門の位置や、肛門のまわりの筋肉・神経に異常がある病気です。赤ちゃんが生まれてすぐ、または新生児期に見つかることがほとんどで、小児外科で肛門をつくる手術を行います。
おなかの中で赤ちゃんの体がつくられていく過程で起こるもので、はっきりした原因は分かっていません。妊娠中の過ごし方など、ご家族の何かが原因で起こるものではありません。
手術では、もともと少ない筋肉(肛門括約筋)と神経をできる限り生かして、直腸のまわりに筋肉を巻きつけるように肛門をつくります。ただ、もともとの筋肉と神経が少ないため、手術だけでは、生まれつきハンディのないお子さんと同じ力にはなりません。
具体的には、次の2つが弱くなりやすいのです。
・ うんちが溜まったと感じる力(便意)
・ 一気に出し切る力(排便のときに十分に縮む力)
鎖肛は治るの? — よくあるご質問
鎖肛のお子さんのご家族から、よくいただくご質問にお答えします。
Q. 鎖肛は治りますか?
手術で肛門をつくることができ、そのあとの排便の練習を続けることで、多くのお子さんが、その子なりの形で排便を管理できるようになっていきます。ただ、生まれつきの筋肉や神経の状態によって、自分の力で出せるようになるまでの道のりの長さは一人ひとり違います。手術がゴールではなく、手術のあとの長い練習と工夫が、その子の毎日をつくっていく——ここが、鎖肛という病気のいちばん大切なところです。
Q. 鎖肛には種類(型)があるのですか?
はい。直腸の行き止まりの位置によって、「低位」「中間位」「高位」などの型に分けられます。一般に、低位のほうが肛門のまわりの筋肉や神経が保たれていることが多く、型によって手術の方法も、そのあとの排便の力の育ち方も変わります。お子さんの型と見通しは、主治医にたずねてみてください。
Q. 手術のあと、便秘や便もれが続くのはよくあることですか?
よくあることです。鎖肛のお子さんは、うんちが溜まったと感じる力や、出し切る力が弱くなりやすいため、手術のあとも便秘や便もれと長くつきあっていくことが少なくありません。それは手術がうまくいかなかったということではなく、ここからが練習の出番だということです。
Q. 手術のあとの排便の悩みは、どこに相談すればいいですか?
まずは手術を受けた病院の主治医にご相談ください。そのうえで、「今の練習の進め方でいいのか」「学校生活とどう両立すればいいのか」と迷ったときは、別の視点から一緒に考えるセカンドオピニオンも役に立ちます。当院では、小児外科専門医が鎖肛・ヒルシュスプルング病・排泄障害のご相談をお受けしています(この記事の最後にご案内があります)。
手術のあとが、本当のスタート
だから当院では、「手術も大事。でも、手術のあとの排便トレーニングは、もっと大事」とお伝えしています。
トレーニングは手術のあとすぐに始まります。赤ちゃんによっては、生後1か月ごろからグリセリン浣腸による練習が始まることもあります。浣腸で直腸を空っぽにする経験をくり返すことで、「溜まった感覚」と「出し切る感覚」を、体が少しずつ覚えていくのです。
大切なのは、毎日、同じ時間に、同じように続けることです。たとえば朝と夕方の1日2回。出ても出なくても、決まった時間に淡々と続けます。この練習は、5年、10年という単位で続いていきます。
浣腸は「補助輪」。そして、ときには「メガネ」
浣腸や飲み薬は、自転車の補助輪のようなものです。自分の力で走れるようになるまで体を支え、いつか外せる日を目指す道具です。「癖になる」「依存する」と心配される方も多いのですが、毎日の積み重ねのための前向きな浣腸は、練習そのものなのです。
練習を続けていると、いつもの排便の時間が近づくと、その子なりの便意が起きてくるようになります。トイレに座れば、積み重ねてきた力で出せる日が増えていく。生まれつきハンディのある子どもたちも、小学生くらいになると、少しずつ自分の力で出せるようになっていくことが多いのです。
一方で、もともとの筋肉や神経の状態によっては、浣腸を長く使い続ける子もいます。それは失敗ではありません。視力が弱ければメガネをかけ続けるのと同じで、必要な道具を上手に使い続けることも、立派なゴールです。たとえば「プールに入る前に浣腸で直腸を空にしておく」といった工夫で、できることは広がっていきます。
学校に通うようになったら — 正解は、ひとつではありません
学校に通う年齢になると、悩みの形が変わります。どうしても漏れてしまう。なかなかパンツになれない。治療がいつまでも終わらないように感じる。そして、浣腸は朝にするべきか、夜にするべきか。浣腸をしなければ漏れてしまうのに、浣腸をすると、そのあとに液が出てきてしまう——。
小児外科の現場で、こうした悩みに長く向き合ってきて言えるのは、ここには決まった正解がないということです。あるのは、その子とご家族に合う工夫を、一緒に探し続けることです。
工夫の引き出しは、たくさんあります。浣腸の液の量を調整する。浣腸の回数を増やす。飲み薬を組み合わせる。夕方に何回かに分けて浣腸をする。腸を洗い流す「洗腸」という方法を取り入れる。どれを選ぶかは、主治医と相談しながら決めていくものです。
そして選ぶときの物差しは、次の3つです。
・ その子が、続けられるか
・ ご家族が、続けられるか
・ 望んでいる毎日に、近づけるか
だからこそ、最初に決めたいのは方法ではなく、目標です。今年はパンツにすることをめざすのか。パッドを当てれば過ごせる状態をめざすのか。それとも、プールに入れるところまでをめざすのか。野球や運動をしていると、パッドがずれてしまう子もいます。そうしたことも、やってみる中で一つずつ見つけ、また工夫を重ねていくのです。
ふつうの便秘のお子さんにも、同じことが言えます
鎖肛の子どもたちが教えてくれるのは、排便の力は、才能ではなく、くり返しで育つスキルだということです。
原因となる病気のない、いわゆる慢性便秘のお子さんには、筋肉も神経もそろっています。つまり、育つための伸びしろが、もともとあるということです。伸びきった直腸も、溜めない・出し切る毎日を続けることで、時間をかけて引き締まっていきます。
手っ取り早く出すことはできても、手っ取り早く治すことはできません。水をやり続けた畑にだけ実りが訪れるように、排便の力も、毎日の積み重ねの先に育っていきます。浣腸を続けているのは、うまくいっていない証ではなく、練習している証です。
治療のその先へ — その子の生き方に合わせて、一緒に工夫する
病院での治療は、命を守り、体の形を整える、なによりも大切な土台です。そして治療がひと区切りしたあとも、ハンディとともに毎日の暮らしは続いていきます。
ここで大切になるのが、画像や数値、体の形を整えることに加えて、その子とご家族が、どんな毎日を過ごしたいのかという視点です。同じ排便の力でも、学校で安心して過ごしたい子、プールに入りたい子、思いきりスポーツをしたい子では、めざすゴールも、選ぶ工夫も変わります。ゴールから逆算して、使える工夫を組み合わせ、一緒に考えながら前に進んでいく。病気の治療と毎日の暮らしのあいだにある、この相談の領域を、当院は大切にしています。
「治療がうまくいっているのか分からない」「別の方法もあるのでは」と迷ったときに、別の視点から一緒にゴールと工夫を考え直すこと。それも、セカンドオピニオンの大切な役割だと考えています。
長い治療のあいだ、ご家族がいちばん不安になるのは「このままでいいのか分からない」ときです。当院の役割は、そのトンネルの中で「それで大丈夫、順調に練習が進んでいます」とお伝えし、治療の軸がぶれないように伴走する応援部隊であることです。焦らず、一緒に進んでいきましょう。
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「うちの子はどうだろう」と確かめてみたい方へ
鎖肛などの手術のあとも、排便の悩みが長く続くお子さんは少なくありません。「いまの治療でいいのか」「この先どう進めればいいのか」と迷ったときは、一度ご相談ください。当院では、小児外科専門医が、これまでの経過と今の排便の様子をうかがったうえで、「どんな毎日を過ごしたいか」から、治療の見通しとご家庭での工夫を一緒に考えます。遠方の方には、オンラインでのセカンドオピニオンもご用意しています。
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ご予約は、当院ホームページの予約システム(デジスマ診療アプリ)から承っています。
すでに通院中の方へ:排便の練習は、良い日と戻る日をくり返しながら進みます。気になることは、次の診察でそのままお聞かせください。
– 鎖肛(さこう)の術後のお子さんの便漏れ対策〜パッドを用いる工夫〜
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小児外科医 小森広嗣🩺栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
小児外科専門医・指導医、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。小児外科の出身として、いまは地域の中で、お腹と栄養の外来を深く追求している。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療と情報発信の両輪で活動している。
▶ 著書:『うんちが出ない!』(英智舎・2026年12月9日発売)
▶ 取材・講演のお問い合わせ:press@komori-kodomo.com