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先日、平光源先生の講演会に足を運ぶ機会に恵まれました。

小児科医として、そして一人の親として、深く胸に響くお話ばかりでしたので、皆さまにも共有させてください。
講演の冒頭で語られた、人の“理解”に関するお話が特に印象的でした。
「自分の“イエス”が相手の“イエス”ではなく、自分の“No”が相手の“No”でもない。
私たちは皆、それぞれ赤いメガネ、黄色いメガネ、緑のメガネをかけて世界を見ている。」
同じものを見ているはずなのに、感じ方や受け取り方がまったく違う。
子育てや日々の生活の中で、そう感じたことはありませんか?
それは“間違い”ではなく、“その人にとっての真実”。
相手がどんな色のメガネで世界を見ているのか、その「色の違い」を理解しようとすることが、本当の理解と優しさにつながるのだと平先生は語られました。
その瞬間、私の中で「理解=同意ではない」という言葉が静かに腑に落ちました。
――まるで、心の景色が一段深く澄んだように感じました。
続いて語られたのは、「許し」についてです。
「誰しも葛藤があることが悪いのではない。そこから自分を知り、相手を知る。そして自分を許し、相手を許す。」
子育てにおいて、もし子どもがジェットコースターのように激しく揺れ動く存在であるならば、親である自分はメリーゴーランドのように、「こっちがいいよ!」と穏やかに回りながら見守る。
その優しい眼差しに、親として、また一人の人間として、深くうなずきました。私たちはつい、相手の揺れに引きずられてしまいがちですが、大切なのは「自分の軸」で穏やかに回り続けることなのかもしれません。
そして、講演の中で最も心を揺さぶられたのが、「厚み」についてのお話です。
「もともと60の幸せをベースに生きている人が、80の幸せを感じたとしても、その振れ幅、つまり感動の“厚み”は20しかない。
しかし、人と比べて、自分にはマイナス80の不幸があると感じる人が、そこからプラス80の幸せを知ることができたなら。
その“160の厚み”こそが、人を導き、感動を生む。」
私たちはつい、平坦で悩みがない人生(+60)を望んでしまいがちです。
ですが、その「20」の幅で得られる感動と、「160」の振れ幅を経験した人が知る世界の深みは、まったく質が異なります。
深い谷を知り、−80を抱えながらも+80の喜びを見つけた人だからこそ、他者の痛みを本当の意味で理解し、深く寄り添う力が宿る。
それこそが“生きる厚み”であり、人としての本質的な豊かさなのだと、胸が熱くなりました。
日々の生活の中で、まさにこの「厚み」によって人が支え合い、成長していく姿を感じてきたからこそ、平先生の言葉は、自分自身の経験と深く重なりました。

子育てをしていると、「うちの子はほかの子より遅いのでは」「自分の育て方が悪いのでは」と感じることがあるかもしれません。
けれども、それこそが人生の“厚み”を増やすチャンスです。最初からすべてがうまくできるよりも、
「できなかったことが少しずつできるようになっていく」――その過程にこそ、本当の感動があります。
(これは、私が医療や人生の中で一番大切にしている哲学でもあります。)
上を見ればすごい人がいて、下を見れば苦労の少ない人もいる。
でも、それを比べても仕方がありません。
大事なのは、「自分と子どものペースで厚みを育てていくこと」です。
その人の“今の点”に合わせて少しずつ厚みを作っていく。
その積み重ねが、その人だけの人生の意味を形づくります。
だからこそ、「うまくいかない時間」「できないギャップ」こそが、親子にとってかけがえのない宝物だと思うのです。
私自身、日々多くのご家族と関わりながら、この“厚みのある成長”こそが、心を強く、豊かにしていくことを実感しています。
結局、人間は「体験」と「感動」こそがすべてなのだと思います。
思い通りにならない−80の経験すらも、人生をより充実させ、感動を生むための「振り幅」になる。
その厚みを持って生きることこそが、本当の意味での“生きた証”であり、周りの人を導く光になるのだと強く感じました。
私自身、子育てや日々の生活の中で、思い通りにならない現実に何度も向き合ってきました。けれど、起きてしまったことは「なんともならない」。
大切なのは、その「なんともならない」現実の中で、いかに自分が主体性を発揮して生きるかということ。
そして、明日、他の誰かがうまくいっているように見えるかもしれません。
でも、それは“そう見えるだけ”。
誰もがそれぞれの場所で、見えない悩みや葛藤を抱えています。
だから、比較することに意味はありません。
それぞれの人生という舞台で、自分だけのストーリーや、自分の花を見つけていくこと。
それが、本当の幸せにつながるのだと思います。🌸

講演の中で紹介された「赤鼻のトナカイ」のお話も、忘れられません。
まっ赤なお鼻をみんなに笑われていたトナカイ。
けれど、暗いクリスマスの夜には、その光こそがサンタクロースを導く希望となります。
「自分の鼻なんて劣等感の塊だと思っていたけれど、実はそれが人を喜ばせる力になる。」
弱みだと思っていたものが、見方を変えれば誰かを救う光になる。
まさに“赤い鼻”こそが、その人に与えられた強みであり、その人にしか放てない美しい光なのだと思いました。🎄

ネガティブな出来事や困難な経験こそが、「体験の本当の価値」を教えてくれます。
深い谷を知っている人ほど、まったく違う世界の“見え方”を手に入れる。
それは、私自身の過去の経験からも、心から言えることです。
だからこそ、「思い通りにいかない」という現実を悲観せず、その中に宿る意味や成長を見つけていくことが、“幸せに生きる力”そのものなのかもしれません。
この温かい気づきを、今、子育てや人間関係、あるいはご自身の“まっ赤なお鼻”(=弱みだと思っている部分)を隠したいと感じている方に、どうしてもお伝えしたくて、この記事を書きました。

今回の講演でお話しくださった平光源先生の温かい哲学は、
ご著書『だいじょぶだぁ』(幻冬舎)に優しく詰まっています。

この本を読むと、まるで平先生が隣で「だいじょぶだー」と言いながら、そっと背中を押してくれるような気持ちになります。
もし今、子育てや人間関係で「思い通りにいかない」と感じている方がいらしたら、ぜひ手に取ってみてください。
きっと、あなたの“メガネの色”が少し変わり、世界が温かく見えるようになると思います。
【執筆・監修】
小森こどもクリニック 院長 小森広嗣
慶應義塾大学医学部を卒業後、東京都立小児総合医療センターなどで小児外科医として豊富な臨床経験を積む。現在は地域のかかりつけ医として、日々多くのご家族と向き合っている。日本小児外科学会認定の小児外科専門医・指導医、医学博士。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分か-ち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療や情報発信を行っている。