

目次
「もう、一緒にいられない」
「警察を呼ぼうかと思った」
「私の育て方が、悪かったんじゃないか」
夜、お子さんが寝静まったあと、検索ボックスに 「子ども 癇癪 異常」 と打ち込む。一日のうちで、いちばん心が静かになる時間に、いちばん重い問いと向き合う。
そんな夜を、何度も過ごしてこられた親御さんが、当院にいらっしゃいます。
激しい癇癪、止まらない暴言、感情の波の大きさ。
何をしても落ち着かず、ただ嵐が過ぎ去るのを待つしかない。
本人を責めることもできず、自分を責めるしかなくて、いつのまにか「私が悪い」「育て方を間違えた」という結論にたどり着いてしまう。
私はこれまで、日々多くのお子さんのお腹や体の不調と向き合ってきました。そして、栄養外来でご家族の切実な声に耳を傾けていく中で、ある一つのことに、確信に近い思いを持つようになりました。
それは、激しい癇癪や暴言は、お子さんの「気質」や「親のしつけ」の問題ではない場合がある ということです。
実際、当院の栄養外来でも、警察を呼ぶことを考えるほどの状態でいらっしゃったお子さんが、栄養の状態を丁寧に評価し、食事療法とサプリメントを根気よく続けていただいた結果、数ヶ月かけて、少しずつ穏やかな表情を取り戻されたケースがあります。
「体の中が整うと、心も整っていく」
これは、私自身が診療を通じて何度も実感している光景です。
この記事では、なぜ栄養が「心」にまで影響するのか、その仕組みを 5つの視点 からお話しします。

私はこれまで、数多くのお子さんのお腹(消化管)の治療に携わり、体の構造や機能と向き合ってきました。その診療の中で、ある「不思議な光景」を数え切れないほど目にしてきました。
それは、お腹の不調がよくなっていくと、それまで親御さんを悩ませていた 激しいイライラや癇癪、夜泣き、集中力のなさまでもが、一緒にすーっと落ち着いていく という現象です。
「お腹の問題なのに、なぜ心まで変わるのだろう」
最初はそう思っていました。しかし、栄養と腸の関係を学んでいくうちに、答えが少しずつ見えてきました。
腸は、栄養を吸収する「場所」であると同時に、心の安定をつくる「材料」を生み出す臓器 なのです。
たとえば、心を穏やかに保つホルモンとして知られる「セロトニン」。実はその約9割が、脳ではなく 腸でつくられている ということが、近年の研究でわかってきました。これを「腸脳相関(ちょうのうそうかん)」と呼びます。
つまり、腸が荒れていたり、栄養が不足していたりすると、心を整える材料そのものが体の中で足りない状態になる。
その結果、ちょっとした刺激で感情が爆発しやすくなる——そういう現象が、お子さんの体の中で起きている可能性があるのです。
これは、決して「親の育て方が悪い」という話ではありません。お子さん自身も、感情を抑えたくて抑えられないでいる。本人がいちばん辛い思いをしているのです。
激しい癇癪と、もっとも関係が深いと感じるのが「血糖値の乱高下」です。
甘いお菓子・ジュース・菓子パンなどを食べると、血糖値がぐんと上がります。そのあと、体は血糖値を下げようとインスリンというホルモンを大量に出し、今度は血糖値が 急降下 します。
血糖値が急降下すると、体は危機を感じて、アドレナリンやコルチゾールといった「興奮ホルモン」を出します。これらは本来、危険から身を守るための非常用ホルモンですが、頻繁に出ると次のような状態を引き起こします。
・ 些細なことで爆発する(瞬間的に怒りが沸く)
・ 急に泣き出す、急に笑う(感情の振幅が大きい)
・ 食後しばらくしてから不機嫌になる
・ 夕方になるとイライラが増す
これは、本人の意志でコントロールできる範囲を超えています。「気合いで我慢しなさい」と言われても、すでに体の中ではアドレナリンの嵐が起きているからです。
二つ目の視点は「鉄不足」です。
鉄は赤血球の材料として有名ですが、実はそれ以上に重要な役割があります。心を穏やかに保つ神経伝達物質——ドーパミンとセロトニン をつくるための、酵素を動かす「鍵」となっているのです。
鉄が不足すると、これらの神経伝達物質の合成がうまくいかず、結果として:
・ ちょっとしたことで気分が落ち込む
・ イライラが続く
・ 不安感が強くなる
・ 集中力が続かない
といった状態が起きやすくなります。
特に注意していただきたいのは、ヘモグロビン(一般的な貧血の指標)が正常でも、貯蔵鉄である「フェリチン」が空っぽ というお子さんが非常に多いことです。これを「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏)」と呼びます。
「学校の健診で貧血と言われたことはない」というお子さんでも、フェリチンを測ってみると驚くほど低いことがあります。
👉 関連記事:【医師監修】朝起きられない・すぐ疲れるのは鉄不足?フェリチン(貯蔵鉄)と隠れ貧血の正体
三つ目の視点は「亜鉛」です。
亜鉛は、神経伝達のバランスを保つために欠かせないミネラルです。亜鉛が足りないと、興奮系の神経伝達が抑えにくくなり、結果として:
・ 些細なことに過敏に反応する
・ 一度怒り始めると止まらない
・ 感情のブレーキが効かない
・ 偏食が強くなる(亜鉛は味覚にも関わるため)
といった状態が起きやすくなります。
特に 偏食が強いお子さん は、亜鉛不足が連鎖的に深まる悪循環に陥っていることがあります。亜鉛が足りない → 味覚が鈍る → さらに偏食になる → ますます亜鉛が足りなくなる、という負のループです。
「ちゃんと食べてくれない」のは、お子さんのワガママでも、親のしつけ不足でもなく、体が「食べる準備」を整えられていない だけかもしれないのです。
四つ目の視点は「タンパク質」です。
セロトニン・ドーパミン・GABA(リラックス系の神経伝達物質)など、心を整えるホルモン・神経伝達物質は、すべて タンパク質(アミノ酸)からできています。
つまり、タンパク質が足りないと、心を穏やかに保つホルモンの「材料そのもの」が体の中に足りない、という状態になります。
特に現代の子どもは、朝食が「パンとジュース」「菓子パン1個」だけで終わってしまうケースが多く見られます。これでは、午前中の脳と心を支えるタンパク質が圧倒的に足りません。
「うちの子、ちゃんと食べているはずなのに…」と感じる親御さんは多いのですが、タンパク質量 という観点で振り返ってみると、意外なほど不足していることがあるのです。
五つ目、そして最も大切な視点が「腸内環境」です。
冒頭でお話ししたように、心を穏やかに保つセロトニンの 約9割は、腸でつくられています。腸内細菌のバランスが整っていないと、いくらタンパク質や鉄や亜鉛を摂っても、セロトニンが十分に合成されません。
腸内環境を乱す代表的な要因は:
・ 甘いもの・小麦・乳製品の摂りすぎ
・ 加工食品・添加物の多い食事
・ 抗生物質の繰り返し使用
・ 慢性的な便秘や下痢
などです。
特に 便秘が続いているお子さんで、激しい癇癪が見られる 場合、腸内環境の乱れが心の不安定さに直結している可能性が高いと、私は考えています。
ここまでお話ししてきた5つの視点は、それぞれ独立しているわけではありません。ドミノ倒しのように、互いに連鎖しています。
① 血糖値の乱高下ループ
血糖値が乱れる
↓ 体がエネルギー不足になる
↓ 甘いものを欲しがる
↓ さらに血糖値が乱れる
② 鉄不足のループ
鉄が足りない
↓ ミトコンドリア(エネルギー工場)が動かない
↓ 全身の代謝が低下
↓ さらに鉄を吸収できない
③ 腸内環境のループ
腸内環境が悪い
↓ 栄養を吸収できない
↓ 鉄・亜鉛・タンパク質が体に届かない
↓ 心の材料が足りない
つまり、激しい癇癪は 「ひとつの原因」ではなく、複数の歯車が同時に狂った結果 として現れているのです。
だからこそ、当院では血液検査でお子さんの栄養状態を 網羅的に 評価し、どの歯車から整えていくのが最も効率的かを、一人ひとり個別に設計しています。
「では、今日から何ができるのでしょうか?」とよく聞かれます。明日からすぐに大きな変化が起きるとは限りませんが、土台を整える小さな一歩として、以下の3つをご紹介します。
卵・チーズ・しらす・納豆・ヨーグルト・鶏ハムなど、調理が簡単なもので構いません。タンパク質源を一品加える だけで、午前中の感情の安定がまったく違ってきます。
完全にやめる必要はありません。「毎日」を「週に2〜3回」にする だけでも、血糖値の乱高下は確実に減ります。代わりに、果物(特に皮ごと食べられるもの)や干し芋など、自然な甘みのものに置き換えてみてください。
鉄を満たすには、吸収率の高い「ヘム鉄」(動物性食品)が最も効率的です。週に2〜3回は赤身肉や魚を食卓に取り入れてみてください。
ただし、激しい癇癪が日常的に続いている場合、食事だけで鉄や亜鉛のレベルを取り戻すには 時間がかかります。状態が深刻なときは、医療用サプリメントの活用を検討する価値があります。自己判断ではなく、必ず医師の評価のもとで取り入れてください。
以下の項目に、複数当てはまる場合は、栄養という視点での評価をおすすめします。
✔ 些細なことで爆発するように怒る
✔ 一度怒り始めると30分以上止まらないことがある
✔ 食後しばらくしてから不機嫌になる
✔ 夕方〜夜にかけて感情が不安定になる
✔ 甘いもの・ジュースを強く欲しがる
✔ 偏食が強い
✔ 便秘または下痢を繰り返している
✔ 朝起きられない、午前中ぼんやりしている
✔ 集中力が続かない
✔ 顔色が青白い、爪が割れやすい
「うちの子、性格だと思っていたけれど、これだったの…?」
そう気づいて、ホッとされる親御さんはたくさんいらっしゃいます。
お子さんの不調は、決して親の育て方や本人の性格のせいではありません。ただ、体が「材料が足りないよ」「整える仕組みが足りないよ」というサインを、激しい感情というかたちで出していただけなのです。
医療の世界では、安易に「治ります」「治りました」と断言することはできません。お子さんの体は一人ひとり違い、栄養療法もすぐに変化が見える方もいれば、数ヶ月かけてゆっくり整う方もいらっしゃるからです。
ただ、私が診療の中で何度も実感してきたのは、栄養という土台が整うと、お子さんの体と心が、本来の力を取り戻していく という光景です。
魔法ではありません。
体が、本来の働きを取り戻しているだけです。
そして、その変化の過程で、お子さん自身も、ご家族も、少しずつ「自分たちは大丈夫だ」という自信を取り戻していかれます。
「激しい癇癪・イライラ」「不安定な感情」というテーマを、別の角度から詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひご覧ください。
・ 【医師監修】朝起きられない・すぐ疲れるのは鉄不足?フェリチン(貯蔵鉄)と隠れ貧血の正体
・ 離乳食を食べない、夜泣き・癇癪が強い…見えない「栄養欠損」が原因かもしれません
・ 当院の分子栄養学・詳しい治療の流れと費用
「子どもの激しい癇癪は、しつけや気質の問題」——そう信じ込んできた親御さんに、私はこう伝えたいと思います。
それは、お子さんの体が、ずっとサインを出し続けてきたのです。
「栄養という土台が、揺らいでいるよ」と。
そのサインは、激しい感情というかたちで現れるので、見逃されやすく、誤解されやすい。けれど、根っこは「体の材料が足りない」というシンプルな事実だったりします。
ご自身を責めないでください。
育て方が悪かったわけではありません。
お子さんも、いちばん辛い思いをしてきたのです。
栄養という視点を持つことで、ご家族みんなが、もう一度笑顔になれる場所に戻っていける——その可能性を、一緒に探してみませんか。
「もしかして、うちの子も…」と感じられた方は、当院の 子どもの栄養外来(分子栄養学外来) のご案内をご覧ください。詳細な血液検査で鉄・亜鉛・タンパク質・腸内環境の状態を網羅的に評価し、お子さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドの栄養アプローチを行っています。
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小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部卒。都立小児総合医療センター外科医長などを経て小森こどもクリニックを開院。
小児科医・小児外科専門医として数多くのおなか(消化管)の手術や治療に携わり、「こどものお腹のスペシャリスト」として消化管の構造と機能に精通する。
自身や家族の不調が栄養療法で改善した手応えから、「西洋医学だけでは届かない不調」の解決策として「栄養」の重要性を確信。「吸収の場である腸」と「体の材料となる栄養」の両面から、標準治療と分子栄養学を柔軟に組み合わせ、その子の体の土台を根本から整える「統合的な医療」を実践している。日本小児外科学会認定専門医・指導医、医学博士。
栄養・子育て・小児外科の知見を毎日発信しています。
小森広嗣|こどもの栄養とお腹の専門医🌱 @KomoriKodomoCL