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「甘いものを控えてみました。少し良くなった気がしたけど、また戻って。」
「鉄のサプリを飲み始めました。でも3ヶ月経っても、朝はまだ起きられなくて。」
このような言葉を、外来でよく聞きます。
一つのことを試して、一時的に改善する。でも完全には良くならない。また別のことを試す。その繰り返し。
これは「やり方が悪い」のではありません。「見ている場所が、一つだけだから」なのです。
朝起きられない・慢性的な疲労・起立性調節障害。これらの背景には、ひとつの原因ではなく、3つの問題が連鎖して存在しています。1つだけを治そうとすると、残りの2つが足を引っ張り続けます。だから「治らない」のです。
これまでの記事で、2つの視点をお伝えしてきました。
一つは「血糖値の乱れ」。食事のたびに血糖値が急上昇・急降下し、アドレナリンが出続けることで、頭痛・めまい・睡眠障害・朝の覚醒障害が起きるという仕組みです。
もう一つは「鉄欠乏」。鉄はエネルギーを作る工場(ミトコンドリア)と、やる気・覚醒に関わる神経伝達物質の両方に必要で、これが不足することで体が動かなくなるという仕組みです。
ここで一つ、重要なことをお伝えしなければなりません。
血糖値の問題と鉄欠乏は、実は同じ根っこでつながっています。
そしてその根っこにあるのが、「ATP(エネルギー)の不足」です。
少し詳しく説明します。
細胞の中にある「ミトコンドリア」という器官が、私たちの体のエネルギー(ATP)を作っています。このミトコンドリアが正常に動くためには、鉄が不可欠です。鉄は、エネルギーを作る「製造ライン」の中核に組み込まれているからです。
鉄が不足すると、ミトコンドリアの製造ラインが滞り、ATPが十分に作れなくなります。
ATPが不足すると、脳は「エネルギーが足りない、今すぐ補充を!」と緊急サインを出します。その結果、甘いものやジュースを強烈に欲するようになります。
甘いものを食べると、血糖値が急上昇します。すると体はインスリンを大量放出して血糖値を急降下させ、今度は低血糖状態に。体は「エネルギー危機」とみなし、アドレナリンを分泌します。
アドレナリンは睡眠を浅くし、朝の覚醒を妨げ、頭痛やめまいを引き起こします。
これを整理すると、こうなります。
鉄欠乏
↓
ミトコンドリア機能低下 → ATP産生が不足する
↓
脳がエネルギー不足を感知 → 甘いものを強く渇望する
↓
血糖スパイク → 低血糖 → アドレナリン放出
↓
睡眠障害・朝の覚醒障害・頭痛・めまい・疲労感
↓
また甘いものを欲する(悪循環へ)
この「甘いものへの渇望」には、もう一つの仕組みも重なっています。砂糖を食べると、脳の報酬系(ドーパミン回路)が活性化されます。血糖が急降下すると、今度はこの報酬系が「もう一度あの感覚を」と反応します。これはエネルギー補充の必要性とは別の、神経回路が学習した渇望です。
しかも、アドレナリンが慢性的に出続けると「副腎疲労」が起き、ホルモンバランスが乱れます。月経不順になる子もいます。そうすると月経周期が乱れ、さらに鉄の喪失パターンが変化し、体はますます消耗していく。
これは3つの問題が「縦につながった鎖」ではなく、互いが互いを悪化させる「閉じた悪循環」なのです。
血糖値の乱れを引き起こしている本当の原因は「ミトコンドリアのエネルギー不足」です。
ミトコンドリアが正常に動けないから、脳がエネルギー不足を感じ、甘いものを欲する。これが血糖スパイクの根本です。
甘いものを控えても、ミトコンドリアの問題——つまり鉄不足——が解決していなければ、エネルギーを作れないままです。脳の「甘いものへの渇望」は続き、少し気が緩んだ瞬間に元の食生活に戻ってしまいます。
「意志が弱いから戻る」のではありません。2つの理由で、体が「甘いものを欲するように」できてしまっているのです。
一つは、ミトコンドリアが動けないまま——つまり体がエネルギー不足のまま——なので、脳がATPを補おうとして糖を要求し続けること。
もう一つは、繰り返された血糖スパイクと急降下が、脳の報酬系(ドーパミン回路)を条件づけてしまっていること。砂糖を食べた時の「一時的な爽快感」が脳に記憶され、血糖が下がるたびに「あれをもう一度」という渇望が生まれます。これは意志の問題ではなく、神経回路のパターンです。
だから、甘いものを「やめよう」と決意するだけでは機能しない。根っこにある鉄不足とエネルギー産生の問題を解決しない限り、脳は変わらないのです。
鉄を補充しても、血糖値の乱れが続いていると、アドレナリンが慢性的に出続けます。
アドレナリンが出ると、副腎が消耗します。副腎が消耗すると、体のエネルギー消費が増え、さらに鉄が消費されやすくなります。つまり、鉄を補充しても血糖が暴れている状態では、補充した分がどんどん使われてしまうのです。
しかも、鉄の吸収には胃酸が必要です。長期間の血糖乱高下とストレスは、胃腸の働きを乱します。胃酸が弱くなると、鉄は食べても飲んでも、腸から吸収されにくくなります。
せっかく鉄を補充しているのに「フェリチンがなかなか上がらない」という時、背景に血糖の問題が隠れているケースは非常に多いのです。
「3つを同時に」と聞くと、難しそうに聞こえるかもしれません。でも、体の中の仕組みを理解すると、「同時に」という意味が見えてきます。
鉄を補充することで、ミトコンドリアが動き始め、ATPが作られるようになる。すると脳が甘いものを渇望しなくなり、血糖の乱高下が自然に落ち着いてくる。血糖が安定すると、副腎への負担が減り、胃腸の調子が整い、鉄の吸収がさらに改善する。
この3つは「悪循環」にも「好循環」にもなります。どこか一点に正しく介入すれば、連鎖が逆回転し始めるのです。
ただし、「どこから手をつけるか」は検査結果によって変わります。フェリチンがとても低い場合は鉄の補充が最初の優先事項です。血糖の乱高下が激しい場合は食事の改善を先行させることもあります。腸の状態が悪ければ、まず腸を整えることから始めることもある。
重要なのは「全体を見る」ことです。一つの症状に一つの対処をする医療では、この連鎖は見えません。
どこから手をつければいいかわからない時は、まずこの3つから。
① 就寝前にタンパク質を少量食べる
夜間の血糖低下を防ぎ、睡眠の質を改善する最もシンプルな方法です。卵1個、焼き鳥1本、チーズひとかけら——寝る前に少しだけ食べる習慣をつけるだけで、翌朝の目覚めが変わることがあります。
② 血液検査で「フェリチン」を確認する
ヘモグロビンだけでは不十分です。「フェリチン」という貯蔵鉄の数値を確認してください。フェリチンが50を下回っている場合、体のエネルギー工場(ミトコンドリア)が十分に動いていない可能性があります。
③ ジュースを「飲まない」ではなく「タイミングと量を変える」
いきなり完全にやめるのは難しく、逆効果になることもあります。まず「寝る前は飲まない」「飲むなら動く前に」という2つのルールだけを変えてみてください。これだけで夜間の血糖低下が改善し、睡眠の質が変わり始めます。
小児外科医として腸を診続けてきた私が、栄養療法を学んで最も強く確信したことがあります。
体の問題は、決して一箇所だけに起きていない。
朝起きられない、頭痛がする、疲れやすい、気分が落ちやすい——これらは「別々の症状」ではなく、つながった一つの状態の表れです。だから一箇所だけを治そうとしても、限界があります。
全体を見て、連鎖を断ち切る。それが「根本から変わる」ということです。
農場と同じです。土が悪いのに、水だけを変えても、肥料だけを足しても、果実は育ちません。土そのものを整えることが先です。そして土が整えば、水も肥料も、何倍もの効果を発揮します。
お子さんの体も、同じです。
土台を整える。それに尽きます。
本記事は3部構成のシリーズです。合わせてお読みください。
① 血糖値と起立性調節障害——朝起きられないのは根性の問題ではない
② 思春期女子の鉄欠乏——中学生になった途端、崩れた
③ 血糖×鉄×ATP 三位一体の根本解決(本記事)
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小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部卒。都立小児総合医療センター外科医長などを経て小森こどもクリニックを開院。
小児科医・小児外科専門医として数多くのおなか(消化管)の手術や治療に携わり、「こどものお腹のスペシャリスト」として消化管の構造と機能に精通する。
自身や家族の不調が栄養療法で改善した手応えから、「西洋医学だけでは届かない不調」の解決策として「栄養」の重要性を確信。「吸収の場である腸」と「体の材料となる栄養」の両面から、標準治療と分子栄養学を柔軟に組み合わせ、その子の体の土台を根本から整える「統合的な医療」を実践している。日本小児外科学会認定専門医・指導医、医学博士。