2026年10月17日

「布団に入ってから、1時間たっても寝つけないんです」
「夜中に何度も起きて、泣いたり、怖い夢を見たと言ったりします」
「寝ているあいだの歯ぎしりがひどくて、朝は汗びっしょり。起こしてもなかなか起きられません」
寝る時間を早めてみる、部屋を暗くする、絵本を読む。寝る前の工夫を一通り試しても眠りが整わないと、ご家族も毎晩のように起こされて、くたくたになってしまいます。
最初にお伝えしたいことがあります。
眠りの悩みは、寝る前の過ごし方だけで決まるものではありません。夜のあいだの「体の中のエネルギー」が、眠りを左右していることがあります。
その入口のひとつが、血糖の波です。
眠っているあいだも、体は血糖を守っています
人は眠っているあいだ、何も食べません。それでも脳は、夜通しエネルギーを使い続けています。そのエネルギーの中心が、血液の中の糖、つまり血糖です。
夜のあいだ血糖を支えているのは、主に肝臓です。夕食でたくわえておいた糖を少しずつ出し、足りなくなれば、タンパク質などを材料に新しく糖をつくって、朝まで血糖を保ちます。
ふだんは、この仕組みが静かに働いているので、子どもは朝までぐっすり眠れます。
ところが、この「夜の血糖の守り」がうまくいかないと、眠っているあいだに血糖が下がりすぎることがあります。これを夜間低血糖と呼んでいます。
なお、赤ちゃんの夜泣きは、成長の途中で起きる自然なものであることが多いものです。この記事では、幼児期から小学生くらいのお子さんの眠りを中心にお話しします。
寝る前の甘いものと、夜中の目覚めのしくみ
夜の血糖が下がりすぎるきっかけとして、よく見られるのが、寝る前の甘いものです。
ジュースや甘い乳酸菌飲料、お菓子、菓子パン。寝る前にこうしたものを口にすると、血糖が急に上がります。体は上がった血糖を下げようとして、インスリンというホルモンをたくさん出します。
このインスリンには、もうひとつ大切な働きがあります。肝臓が糖を出すのを止める働きです。急に上がった血糖に合わせてインスリンが多めに出ると、血糖が下がったあとも、肝臓にはブレーキがかかったままになることがあります。
すると、夜中から明け方にかけて、血糖が下がりすぎてしまいます。
血糖が下がると、体はそれを「エネルギーが足りない、危ない」と受けとめ、血糖を持ち上げるためにアドレナリンなどのホルモンを出します。アドレナリンは、体を目覚めさせ、戦う準備をさせるホルモンです。眠っているあいだにこれが出ると、こんなことが起こります。
・眠りが浅くなり、夜中に目が覚める
・怖い夢を見る、泣いて起きる
・歯ぎしりをする、寝相がとても悪い
・寝汗をびっしょりかく
そして朝。夜のあいだ体が気を張り続けていたぶん、頭が痛い、起きられない、だるい、朝ごはんが食べられないという形で残ることがあります。
ここで大切なのは、症状を作っているのは、血糖の高さそのものではなく「揺れ」だということです。急に上がれば、体は同じ強さで下げようとし、下げすぎた分をまた持ち上げようとする。この上下の揺れが、眠りを乱しています。
夜の血糖を支えているのは、鉄とタンパク質です
寝る前に甘いものを口にしていないのに、眠りが浅い。そんなお子さんもいます。
先ほど、肝臓は夜のあいだ、タンパク質などを材料に新しく糖をつくるとお話ししました。この仕事には、材料(タンパク質)と、それを動かす鉄・ビタミンB群が欠かせません。材料が足りないと、夜の血糖を守る力そのものが弱くなります。
鉄には、眠りに直接かかわる役目もあります。眠りを誘うホルモン(メラトニン)は、体の中で順番に組み立てられてできますが、その組み立ての途中で、鉄が必要になります。
また、寝る前に脚をむずむずと動かす、寝つくまでに脚をさすってほしがるというお子さんでは、体の中の鉄の貯金が少なくなっていることがあります。脚のむずむずで眠れなくなる状態(むずむず脚症候群)や、夕方から夜にかけて脚を痛がる、いわゆる「成長痛」にも、鉄不足が関わっていると考える医師がいます。すべてがそうだと言い切れるわけではありません。ただ当院でも、鉄の貯金を整えていくなかで、夜の脚の訴えが落ち着いていくお子さんを見ています。
診察室では、夜間低血糖と、隠れた鉄不足が重なっているお子さんによく出会います。鉄が足りないと血糖も不安定になりやすく、二つが重なると、眠りも朝の目覚めも、いっそう崩れやすくなります。
こんなサインがあれば、疑ってみてください
診察室では、こういうところを確認しています。
・布団に入ってから、なかなか寝つけない
・夜中に何度も目を覚ます、泣いて起きる、怖い夢を見る
・歯ぎしりがひどい、寝相がとても悪い
・寝汗が多い
・寝る前に、甘い飲み物やお菓子を口にすることが多い
・朝、なかなか起きられない、起きても機嫌が悪い
・朝に頭痛を訴える、朝ごはんが食べられない
・日中に甘いものをよく欲しがる
・脚をむずむず動かす、夜に脚を痛がる(成長痛と言われている)
・顔色がさえない、疲れやすい
いくつか当てはまるなら、夜のあいだの血糖と、栄養の土台を確かめてみる価値があります。
ひとつ、大切な線引きをお伝えします。
眠りの悩みの原因は、栄養だけではありません。寝る直前までの画面の光、生活リズム、園や学校での不安、皮膚のかゆみ、お腹の張りや便秘など、背景はさまざまです。とくに、大きないびき、眠っているあいだに呼吸が止まる、いつも口で息をしているというときは、鼻やのどの問題が隠れていることがあるので、そちらを先に確かめます。
また、朝に何度も吐く、頭痛がだんだん強くなる、夜中に強い頭痛で目を覚ます、けいれんや意識がぼんやりすることがあるというときは、栄養の話より先に、一度きちんと診させてください。
やっかいなのは、輪が閉じてしまうこと
ここに、夜の血糖の問題の見つけにくさがあります。
夜の眠りが浅い → 朝起きられず、朝ごはんが食べられない → 昼前におなかが空いて、甘いものが欲しくなる → 血糖の揺れが大きくなる → 夜もまた、甘いものを欲しがる。
この輪がいったん閉じると、時間だけではなかなか抜け出せません。眠れない子も、毎晩起こされるご家族も、少しずつ消耗していきます。
これは、気持ちや根性の問題ではありません。体の中で、エネルギーの回し方がうまくいっていない状態です。そう分かるだけで、ご本人もご家族も、少し肩の力が抜けることがあります。
どこかで、外から輪を切る必要があります。
ご家庭で、今日からできること
栄養外来でお伝えしている工夫です。難しいことではありません。目指すのは、血糖を「上げる」ことではなく、揺れを小さくすることです。
寝る前の甘い飲み物を、見直す
いちばん効くのが、寝る前の甘い飲み物を見直すことです。ジュース、甘い乳酸菌飲料、スポーツドリンク、砂糖入りのココア。甘いものを口にすると、その場は落ち着いて、寝つきが良くなったように見えることもあります。ただ、急に上がった血糖は、夜中の落ち込みを大きくします。寝る前は、お水か麦茶に。ここから始めてください。
小腹が空くなら、「ゆっくり燃えるもの」に置き換える
寝る前におなかが空いてしまう子もいます。そのときは、我慢させるより、中身を置き換えるほうがうまくいきます。
・無調整の豆乳に、きなこを少し
・ゆで卵をひとつ
・豆腐や納豆、具の入った味噌汁
・無糖のヨーグルトに、きなこ
甘いお菓子やパン、おにぎりだけの補食ではなく、タンパク質と少しの脂質で満たす。
当院では、無調整の豆乳にMCTオイルを少し加える工夫をお伝えすることもあります。MCTオイルは、ふつうの油と違って、すぐにエネルギーとして使われやすい油です。血糖を急に上げずに、夜のあいだのエネルギーを支える助けになります。ただ、においが苦手な子や、お腹がゆるくなる子もいるので、量はお子さんに合わせて、診察で一緒に決めています。
「寝る前に食べると太るのでは」「寝る前は胃を休めた方がいいのでは」と心配されるご家族もいます。その考え方にも理由があります。ただ、夜中に血糖が下がって眠りが崩れ、朝に動けなくなるほうが、お子さんにとっての負担は大きいものです。まずは、夜を越えられることを優先します。
夕食を、糖質だけにしない
寝る前だけでなく、夕食から整えることが大切です。ご飯やパン、麺だけで食べ始めず、肉・魚・卵・豆腐などのタンパク質と、野菜や海藻をいっしょに。食べる順番を「おかずから」にするだけでも、血糖の上がり方はなだらかになります。糖質をゼロにする必要はありません。成長期の子どもにとって、糖質は大切なエネルギーです。
夕食のあとに、少し体を動かす
筋肉は、食後の血糖を受けとめる大きなタンクです。体を動かすと、このタンクの扉が開きやすくなります。夕食後に5分歩く、お皿を運ぶ、家の中で少し動く。それだけで、食後の血糖の揺れが小さくなり、夜に肝臓が働きやすい状態に近づきます。
朝に、タンパク質を「ひとつ」
朝ごはんが甘いパンや飲み物だけだと、一日の血糖の揺れがそこから始まります。卵、納豆、味噌汁、ヨーグルトのどれかを一口。朝からたくさん食べられない子は、一口で十分です。
血液検査で、眠りの「土台」を確かめる
ご家庭の工夫と並んで、当院が大切にしているのが、推測ではなく、確かめることです。
ここで知っておいていただきたいことがあります。夜間低血糖は、ふつうの健康診断ではなかなか見つかりません。朝の空腹時の血糖や、糖尿病の検査でよく使う項目は、この状態ではたいてい正常に出ます。「検査では異常なしと言われた」というご家族が多いのは、このためです。
当院では、症状とあわせて、血糖の揺れの手がかり、鉄の貯金、タンパク質が体の材料になっているか、エネルギーをつくれているかを、血液の検査で見ていきます。
ここには、二つの視点があります。ひとつは、医師の視点。症状から、調べる範囲を決めます。もうひとつは、ご家族の視点。体の土台を、もう少し広く見ておきたいという希望に合わせて、範囲を広げることもできます。
血液検査の一つひとつの数字は、それだけでは読みきれません。血糖も、鉄も、タンパク質も、他の数字と並べて、はじめて意味が見えてきます。だから当院では、いくつかの項目を合わせて読みます。
そして、もし調べるなら、食事やサプリメントを始める前がいちばん役に立ちます。あとからだと、比べるもとがなくなってしまうからです。
栄養の役目は、土台を上げることです
夜の血糖が安定し、栄養の土台が整ってくると、寝つきが早くなる、夜中に起きる回数が減る、朝の頭痛が減る、自分で起きてくるお子さんを、当院では何人も見てきました。
ただ、栄養は万能ではありません。
眠りは、光、生活リズム、心の状態、家庭や学校の環境といった、たくさんのものに支えられています。栄養だけで、そのすべてが変わるわけではありません。
当院がしているのは、眠りの土台を上げることです。土台が整えば、体はもともと持っている「眠る力」「朝起きる力」を、取り戻しやすくなります。
どれくらいで変わるのか
まずは1〜2週間で、夜を越えられるようにすることを目指します。そこから1〜2か月かけて、体が自分で血糖を立て直せるようにしていきます。
途中で「あまり変わらない」と感じる時期があります。その時期があること自体は、うまくいっていない印ではありません。
目指しているのは、寝る前の補食をずっと続けることではありません。補食がいらなくなることです。食事の時間や回数に、体が振り回されなくなる。そこがゴールです。
変化は、こんな形でやってきます。
「そういえば最近、夜中に呼ばれなくなった」
「朝、前より機嫌よく起きてくる」
本人は「よく眠れるようになった」とは言わないかもしれません。気づいたら、朝が楽になっていた。だからこそ、ご家族が小さな変化に気づいてあげてください。
受診されたら、何をするのか
はじめて栄養外来にお越しいただいた日は、こんな流れになります。
・問診:寝つき、夜中の目覚め、寝る前に口にしているもの、朝の様子、日中の甘いものの量までを一通りうかがいます
・診察:全身の状態と、お腹を診ます。いびきや口呼吸、便秘など、眠りを妨げる別の原因がないかも確かめます
・血液検査:血糖の揺れの手がかり、鉄の貯金(フェリチン)、タンパク質が体の材料になっているかを合わせて読みます
・方針決め:結果を見ながら、夕食・寝る前・朝の工夫と、必要ならサプリメントを、ご家庭で続けられる形に組み立てます
一度にすべてを変えることはしません。どこから始めるかを、ご家族と一緒に決めます。
鉄のサプリメントは、自己判断で始めないでください。多すぎても体の負担になることがあり、量とタイミングに工夫が要ります。ここは検査を見ながら、医師と一緒に決めるところです。
来院前に、見ておいていただけると助かること
・寝た時刻と、起きた時刻
・夜中に目を覚ました回数(泣く・怖い夢・トイレなど)
・寝る前の2〜3時間に口にしたもの
・歯ぎしり、寝汗、いびき、口呼吸、脚のむずむずや痛みの有無
・朝の頭痛、機嫌、朝ごはんを食べられたか
・他院での血液検査の結果があれば、そのコピー
・お薬手帳
1週間ほどメモしておいていただけると、初診の時間を「その子固有の話」に使えます。
「うちの子はどうだろう」と思われたら
寝る前の工夫を重ねても眠りが整わないとき、それはご家族の努力が足りないからではありません。まだ、体の側の入口を確かめていなかっただけかもしれません。
まずは、かかりつけの先生と相談しながら進めてください。そのうえで、今の相談で手応えが出ないときは、栄養を専門に診ている医師に相談することも、大切な選択肢だと思っています。
お子さんのせいでも、ご家族のせいでもありません。確かめれば、打つ手がある状態です。
合わせて読みたい関連記事
夜の血糖と栄養の土台は、朝の目覚めや日中の元気にもつながっています。お子さんの様子に近いものから読んでみてください。
・フェリチンを増やすには?朝起きられない子の隠れ貧血(鉄不足)と増やし方を小児外科医が解説(朝の不調・鉄)
・【小児外科専門医が解説】起立性調節障害(OD)と血糖値の意外な関係——腸と栄養の専門医の視点(朝起きられない・血糖)
・子どもが甘いものをやめられないのはなぜ?小児外科医が解説する「糖質依存」と「鉄欠乏」の意外な関係(甘いもの・血糖の波)
まとめ
・寝つきの悪さや夜中の目覚めは、寝る前の過ごし方だけで決まるものではありません。夜のあいだの血糖の波が関わっていることがあります
・夜の血糖を支えているのは肝臓です。寝る前の甘いものでインスリンが多く出ると、肝臓にブレーキがかかり、夜中に血糖が下がりすぎることがあります
・血糖が下がると、体はアドレナリンを出して持ち上げようとします。それが、浅い眠り・怖い夢・歯ぎしり・寝汗・朝の頭痛として現れることがあります
・症状を作るのは血糖の高さではなく揺れです。目指すのは、上げることではなく、揺れを小さくすること
・夜の血糖を守る力と、眠りのホルモンには、鉄とタンパク質が欠かせません。脚のむずむずや「成長痛」に、鉄不足が関わっていることもあります
・ご家庭では、寝る前の甘い飲み物を見直す/小腹は豆乳・卵・豆腐などに置き換える/夕食を糖質だけにしない/夕食後に少し動く/朝にタンパク質をひとつ
・原因は栄養だけではありません。いびき・呼吸が止まる・口呼吸は鼻やのどを先に。朝に吐く、強くなる頭痛のときは、先に診察で確かめます
・夜間低血糖は、ふつうの健康診断では見つかりにくいものです。検査は、食事やサプリメントを始める前がいちばん役に立ちます
・まず1〜2週間で夜を越え、1〜2か月かけて、体が自分で立て直せるようにしていきます
眠りは、毎日少しずつ、体の中で育っていくものです。夜のあいだの揺れが小さくなれば、体は、その子本来の眠る力を取り戻しはじめます。
今日から、ひとつだけ
本文でいくつかお伝えしましたが、全部を一度にやる必要はありません。まず今夜は、寝る前の甘い飲み物を、お水か麦茶に。おなかが空いているようなら、無調整の豆乳かゆで卵を。それだけで、夜のあいだの揺れが変わりはじめます。
▶ 子どもの便秘と栄養|鉄・ビタミンD不足と「入れる順番」(便秘専門サイト)
お腹と栄養のつながりを、便秘専門サイトで解説しています。
眠りと食事のヒントを、LINEで受け取る
寝る前に何を食べればいいか、夕食をどう組み立てるか。診察室では話しきれない眠りと食事の工夫や、「今日ひとつだけできること」を、小森こどもクリニック 栄養の公式LINEで少しずつお届けしています。何から始めればいいか迷う方は、ここから受け取ってください。
「うちの子はどうだろう」と確かめてみたい方へ
「寝つきが悪い」「夜中に何度も起きる」と言われてきたお子さんで、詳しい血液検査をしてみると、血糖の揺れや鉄の不足が見つかった、というケースを当院では多く経験しています。眠りの背景に栄養があるかどうかは、血液検査で確かめられます。当院の子どもの栄養外来(分子栄養学外来)では、眠りの様子・食べ方・朝の様子・便の様子までうかがったうえで、検査をもとにお子さん一人ひとりに合わせて組み立てていきます。
ご予約は、当院ホームページの予約システム(デジスマ診療アプリ)から承っています。
診察室の外の発信
診察室では話しきれないこと、医師が何を考えながら診ているのかを、Xでも書いています。
小児外科医 小森広嗣🩺栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
小児外科専門医・指導医、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。小児外科の出身として、いまは地域の中で、お腹と栄養の外来を深く追求している。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療と情報発信の両輪で活動している。
▶ 著書:『うんちが出ない!』(英智舎・2026年12月9日発売)
▶ 取材・講演のお問い合わせ:press@komori-kodomo.com