2026年7月04日

「何を食べても、人は生きていける」
これは、ある意味では本当です。
甘いものが多くても、食事が少し偏っても、すぐに病気になるわけではありません。人間の体はよくできていて、多少の乱れには耐える力があります。実際、そんなに気をつかっていなくても元気に育つ子は、たしかにいます。
だから「食事なんて、そこまで大きな問題じゃないのでは?」と感じている方も、少なくないと思います。その感覚は、半分は本当です。
でも、私たちがここでお伝えしたいのは、「生きていけること」と「調子よく過ごせること」は、同じではないということです。
「大きな病気ではない」と言われたのに、調子が悪い子たち
「大きな病気ではありませんよ」
そう言われて、ホッとしたはずなのに。 うちの子は、なぜかいつもお腹が張っている。便秘がなかなか良くならない。腹痛をくり返す。疲れやすくて、朝がとても弱い。
当院の栄養外来には、そんなお母さん・お父さんが多くいらっしゃいます。 検査では大きな異常はない。命に関わる状態でもない。それなのに、毎日どこか調子が悪い。
同じものを食べても、けろっとしている子もいれば、こうして不調が続く子もいます。だからこそ、「食べても元気な子がいる」ことと、「今つらそうにしているこの子に何ができるか」は、分けて考える必要があるのです。
このページでは、そうしたお子さんに対して、当院がどんな考え方で向き合っているのかをお伝えします。
命に関わる病気を見逃さないことは、医療の最優先です。感染症や炎症、内分泌の病気、外科的な病気などをきちんと除外することは、とても重要です。当院は小児外科の専門医として、まずそこを見落とさないことを大前提にしています。
そのうえで、私たちがもう一歩見たいのは、「病気か、病気ではないか」だけでなく、その子の体が本来の力を発揮できているか、という視点です。
病気がないことと、体がよい状態で働いていることは、実は同じではないのです。
腸は、体調の土台がいちばん見えやすい場所
「お腹の話ばかりするのはなぜですか?」と聞かれることがあります。
それは、腸が単なる「食べ物の通り道」ではないからです。腸は、食べ物を消化し、栄養を吸収し、いらないものを便として出し、腸内細菌と共に働き、免疫にも関わっています。体の内側と外側を分ける、いちばん大事な境界線でもあります。
だから同じものを食べても、元気に過ごせる子もいれば、お腹が張る子、便秘になる子、腹痛が出る子がいます。これは「食べ物が良いか悪いか」だけでは説明できません。
腸の動き、便の停滞、ガスのできやすさ、腸のデリケートさ、消化吸収の力、栄養の状態、成長の段階や体質——こうしたものが重なって、その子の「今の体調」として表れてきます。
つまりお腹や栄養の問題は、「健康意識の高い人だけの話」ではありません。今まさに困っているお子さんにとっては、毎日の暮らしの質に直結する、とても切実な問題なのです。
「腸内環境を整える」=「腸活をがんばる」ではありません
ここで、ひとつ大事なことをお伝えさせてください。
私たちは、「腸に良いものをたくさん入れれば整う」とは考えていません。
ヨーグルトを食べる。発酵食品を増やす。食物繊維をたっぷりとる。サプリメントを足す。——これらが役立つ子もいます。でも、すべての子に同じように合うわけではありません。
お腹が張っている子に、いきなり食物繊維を増やすと、かえってガスや腹痛が悪化することがあります。まず便の停滞を取ることが先の子もいます。腸がデリケートな時期には、いったん刺激を減らすほうが良い子もいます。
ですから当院が大切にしているのは、流行としての「腸活」ではありません。
・その子の腸が今、何を受け取れる状態なのか ・何を減らすと楽になるのか ・何を少しずつ足すと育っていくのか ・どの順番で整えると、無理がないのか
ここを、お子さんとご家族と一緒に見ていくことです。
このテーマは、こちらの記事で詳しくお話ししています。
👉 腸内環境の「現在地」を調べる — 腸内細菌検査(腸内フローラ検査)
検査は「答え」ではなく、その子を理解するための地図
お腹や栄養の状態を見るとき、当院はひとつの検査だけで判断することはしません。
症状の経過、便通の様子、食事の内容、成長曲線、体重の増え方、血液検査、必要に応じた栄養の評価や腸内細菌の検査、そして実際に食事や栄養を見直したときの体の反応。——これらを組み合わせて、その子の状態を立体的に見ていきます。
検査は、絶対の答えではありません。けれど、「体の中で今、何が起きていそうか」を考えるための地図にはなります。
たとえば、同じ「便秘」でも、便が直腸にたまっているのが中心の子、ガスでお腹が張りやすい子、食後にすぐ苦しくなる子、甘いものや小麦・乳製品で悪化しやすい子、胃腸炎や抗菌薬のあとから崩れた子——整え方はそれぞれ違います。
だから当院は、「正しい食事」を一方的に押しつけるのではなく、その子の体が、今、受け取れる食べ方を一緒に探すことを大切にしています。
保険診療と民間療法の「あいだ」にある、医学的な個別化の領域
一般的な医療は、病気を診断し、標準治療を行うことにとても優れています。これは医療の土台であり、欠かせないものです。
一方で、現実には「病気とは言えないけれど、元気でもない」お子さんがたくさんいます。この領域は、保険診療の枠だけでは十分に扱いきれないことがあります。
だからといって、根拠の乏しい民間療法に流れてしまうのも、私たちは違うと考えています。
当院が目指しているのは、医師としての医学的な視点を土台にしながら、病気になる前の不調や、検査では見えにくい体調の乱れを、丁寧に見立てることです。
大切なのは、極端な食事制限ではありません。不安をあおることでもありません。すべてを腸のせいにすることでもありません。お腹・栄養・便通・成長・生活・体質を合わせて見ながら、その子が本来もっている回復力や、成長する力を引き出していくことです。
お子さんの「今の状態」から、詳しく読む
「病気ではないけれど元気でもない」という状態は、症状によって入口がいくつもあります。お子さんの気になるところから、こちらの記事もあわせてお読みください。
・検査で「異常なし」と言われたのに、つらそう
→ 「異常なし」と言われたのに辛いのはなぜ? / 血液検査を栄養の視点で読み直す
・なんとなく不調が続く・隠れた栄養不足が気になる
→ 隠れ栄養失調セルフチェック15項目 / なぜ食事だけでは足りないのか
・便秘・腹痛・お腹の張りをくり返す
→ 便秘治療のゴールとは
・疲れやすい・朝起きられない
→ 朝起きられないのは鉄不足?フェリチンの話
・肌荒れ・ニキビが治りにくい
→ 治らない肌荒れと亜鉛・タンパク質
・甘いものがやめられない・機嫌の波が大きい
→ 甘いものがやめられない理由 / 激しい癇癪と栄養の5つの視点
私たちが届けたい方へ
私たちは、すべての人に腸や栄養の大切さを押しつけたいわけではありません。今の暮らしで元気に過ごせていて、何も困っていない方に、余計な不安を与えたいわけでもありません。
お届けしたいのは、こんなふうに感じているお子さんとご家族です。
・「大きな病気ではない」と言われたけれど、やっぱり調子が悪い
・便秘や腹痛をくり返している ・お腹が張って、しっかり食べられない
・疲れやすさや、朝の弱さが気になる
・食事や栄養を見直したいけれど、何が本当に必要かわからない
そして、「ただ薬を出すだけではなく、体の土台から整える方法を知りたい」と感じている方です。
お腹から、健康の土台を整える
腸内環境を整えることは、特別な健康法ではありません。それは、消化する力・吸収する力・出す力・炎症を落ち着かせる力・粘膜を守る力・栄養を使って成長する力、そして毎日を元気に過ごすための余力——こうした体の土台を、少しずつ整えていくことです。
「病気ではないから大丈夫」ではなく、「この子がもっと楽に、もっと元気に過ごすには、今、何ができるだろう」。私たちは、この問いを大切にしています。
お腹は、子どもの体からの小さなサインが、いちばん見えやすい場所です。便秘やガス、腹痛、食後の不調は、単なるお腹の問題ではなく、体の土台を見直すきっかけになることがあります。
医学的な視点を土台に、一人ひとりの症状・成長・栄養・腸の状態を丁寧に見ながら、その子に合った整え方を、一緒に考えていきます。焦らなくて大丈夫です。今の「現在地」がわかれば、進む方向は必ず見えてきます。
お子さんの体の土台を、本気で一緒に整えていきたいとお考えの方は、当院の栄養外来へご相談ください。
栄養についてのご質問は、当院の栄養公式LINEからお問い合わせいただけます(便秘に関するご相談は、クリニックまで直接お問い合わせください)。
なお、ご予約は当院ホームページの予約システム(デジスマ)よりお取りいただけます。
監修者プロフィール
小森 広嗣(こもり こうじ) 医療法人社団ビバーチェ 理事長 / 小森こどもクリニック 院長 小児外科専門医・医学博士
都立小児総合医療センター外科医長として年間1,000件以上の手術を執刀する中で、「手術を尽くしても栄養が整わなければ傷はつながらない」という現実に直面し、分子栄養学(栄養療法)の道へ。現在は「腸の構造(小児外科)」と「腸の機能(栄養)」の両面からアプローチする独自の診療スタイルを確立し、年間5,000組以上の便秘診療と栄養外来を行っている。「体の土台を整えることは、心の土台を整えること」を信念に、子どもたちの可能性を拓く医療を実践中。