2026年7月04日

「便は出ているのに、夕方お腹がパンパン」
毎日お通じはあるのに、夕方になるとお腹がカエルのようにパンパンに膨らむ。ガスやおならが異常に多い。少し食べただけでお腹がいっぱいになる——。
小児科に行っても「ガスが溜まっているだけですね」と整腸剤を出されて終わり。でも、根本的には何も変わらない。こうしたお子さんのお腹の張りの背景に、見逃されがちな SIBO(小腸内細菌増殖) という状態が隠れていることがあります。
この記事では、SIBOとは何か、なぜ「良かれと思った腸活」がかえってお腹の張りを悪化させることがあるのか、そして当院が 発酵ガスの呼気検査 で何を見ているのかを、腸の構造を診てきた小児外科専門医の視点から解説します。
SIBO(小腸内細菌増殖)とは何か
私たちの腸には、たくさんの細菌が住んでいます。ただし、その住む場所には「本来のバランス」があります。
・ 大腸 — 本来、細菌がたくさん住んでいる場所
・ 小腸 — 本来、細菌が少ない場所
ところが、何らかの原因で、本来は少ないはずの 小腸に細菌が増えすぎてしまう ことがあります。これが SIBO(Small Intestinal Bacterial Overgrowth=小腸内細菌増殖) です。
小腸で細菌が増えると、食べたものが吸収される前に細菌に横取りされ、過剰に発酵します。この発酵によって大量のガス(水素やメタン)が発生し、お腹がパンパンに張り、腹痛やゲップ、便通の乱れを引き起こすのです。
「体にいい腸活」が、逆効果になる子がいる
ここが、とても大切なポイントです。
ヨーグルト、食物繊維、オリゴ糖、発酵食品——これらは一般的には「腸にいいもの」とされています。ですが、SIBOの状態にあるお子さんにとっては、逆効果になることがあります。
なぜなら、これらはいずれも 発酵しやすい成分(FODMAPと呼ばれる発酵性の糖質を含む) だからです。すでに小腸で細菌が増えすぎている状態でこれらをたくさん与えると、細菌がさらにエサにして爆発的にガスを作り出し、お腹の張りが悪化してしまうのです。
「よかれと思って一生懸命がんばっていた腸活が、実はお腹の張りの原因になっていた」——。これは決して珍しいことではありません。だからこそ、「何を足すか」の前に、今の腸が、発酵しやすい状態になっていないかを知ることが大切なのです。
発酵ガスの呼気検査でわかること
SIBOやお腹の発酵の状態は、呼気(息)を使った検査で調べることができます。
糖の液を飲んだあと、一定時間ごとに息を採取し、その中に含まれる 水素(H2)とメタン(CH4) というガスを測定します。腸内で細菌が糖を発酵させるとこれらのガスが発生し、その一部が血液を通って肺から吐き出されるため、息を調べることで「腸内でどれくらい発酵が起きているか」がわかるのです。
検査を受ける前の「がんばり(前処置)」について
採血ではなく息を吐くだけの検査ですが、実は事前の準備(前処置)に少しがんばりが必要です。正確なデータを出すため、検査の前日は専用の食事(発酵しにくい特定のメニュー)に制限し、12時間ほどの絶食をしてから臨む必要があります。
お子さんには少し負担がかかる検査だからこそ、当院では「とりあえず全員に」行うのではなく、本当にお腹の張りやガスで困っているお子さんに、しっかりタイミングを見極めてご提案しています。
当院は「陽性か陰性か」で終わらせない
ここで、当院の考え方をお伝えします。
SIBO検査というと、「小腸に菌がいるか調べて、陽性なら抗菌薬で除菌する検査」と狭く受け取られがちです。しかし当院は、この検査を 「今のお腹が、どれくらい発酵しやすい状態か」を見える化するための検査 と位置づけています。
・ 発酵しやすいお腹なのか
・ ガスは水素型か、メタン型か(メタン型は便秘・腸の動きの低下と関連します)
・ 今、食物繊維や発酵食品を入れてよい状態か、それとも一時的に控えるべきか
・ お腹の張りが、発酵によって本当に再現されるか
こうした情報から、「次に何をすべきか」という治療のステップを決めるための、大切な手がかりを得るのです。陽性・陰性という白黒だけで判断するものではありません。
なぜ「ラクツロース」で大腸まで見るのか
呼気検査で飲む糖には、主に「ブドウ糖」と「ラクツロース」の2種類があります。
・ ブドウ糖 — 主に小腸の状態を見るのに向いている
・ ラクツロース — 吸収されにくく大腸まで届くため、小腸から大腸までの、腸全体の発酵の傾向を見られる
当院では、「小腸に菌がいるか」だけでなく、大腸を含めた腸全体が、どれくらい発酵材料に反応しやすい状態かという、より広い視点を大切にしたいと考えています。そのため、ラクツロースを使う方法を軸に検討しています。お腹の張りの背景を立体的に捉え、食事や治療の設計に活かすためです。
検査で終わらせない — 「順番のある」お腹の整え方
呼気検査は、あくまでスタート地点です。結果を踏まえて、正しい順番でお腹を整えていくことが何より大切です。
・ まず、発酵しやすいものを一時的に減らす(引き算) — 甘いもの・ジュース・果物の摂りすぎ、高FODMAP食を調整する。この段階で食物繊維や乳酸菌を焦って増やさない
・ 便やガスの「渋滞」を取る — 便秘があると発酵・ガスの温床になる。まず便通を整える
・ 腸の粘膜を修復し、過敏さを鎮める — ビタミンD・亜鉛・タンパク質などで土台を立て直す
・ 落ち着いてから、腸内細菌を育てる — 食物繊維や発酵食品は、腸が受け止められる状態になってから少量ずつ
「腸活」でつまずく多くの方は、この順番を飛ばして、いきなり最後(菌や繊維を足す)から始めています。順番を守ることが、遠回りしないための一番の近道なのです。
便秘とSIBOの深い関係 — 小児外科医だからこそ見える視点
便秘とSIBOには、密接な関係があります。便がたまって腸の動き(蠕動運動)が低下すると、小腸の細菌を洗い流す力が弱まり、細菌が増えやすくなります。つまり、便秘がSIBOの原因や悪化の要因になることがあるのです。
院長の小森は、小児外科専門医として長年お子さんの消化管を診てきました。年間5,000組以上の便秘診療で腸を触診し、手術で実際に腸の中を見てきた「腸の構造を熟知した」医師です。だからこそ、「便秘の治療を先に進めるべきか」「発酵への対応を先にすべきか」という優先順位を、構造の視点から適切に判断できます。検査の「数値(発酵)」と、実際の腸の「構造(便秘)」を切り離さず一体で診る——ここに、腸を専門にしてきた当院の存在意義があると考えています。
この検査は、どの順番で受けるとよいか
当院がもっとも大切にしているのは、「その検査が、明日からの治療にどれだけ直結するか」です。この考えにもとづく、当院の検査の優先順位は次のとおりです。
この記事でご紹介したSIBO(発酵ガス呼気)検査は、3番目の「必要に応じて」にあたります。すべてのお子さんに最初から行う検査ではなく、お腹の張り・ガスが症状の中心にある子や、「腸活」でかえって調子が悪くなった子への「次の一歩」です。便秘がある場合は、まず便通を整える「引き算」を優先することも少なくありません。
なお、この「発酵を見るSIBO検査」と「腸の壁を見る腸管バリア検査」は、同じお腹を見ていても切り口がまったく異なります。壁の検査で腸の発酵の様子はわかりませんし、その逆もできません。どちらか一方でもう一方を代用することはできず、それぞれに役割があります。当院がSIBO検査でラクツロースを軸にするのも、「腸全体がどれくらい発酵しやすい状態か」という、壁の検査では見えない側面を捉えるためです。
また、4番目の「腸内細菌検査」も、発酵の検査とは別の視点を持っています。SIBO検査で「発酵しやすい状態」が落ち着いたあとに、どんな食物繊維(サンファイバー等)や整腸剤ならこの子に合うかを、より精度高く提案するためのものです。足し算を個別化したい方には、腸内細菌検査も並行してご提案しています。
こんなときは、まず一般的な受診を
お腹の張りやガスの多くは、これまでお話ししたような「機能的な」問題です。ただし、次のようなサインがあるときは、SIBOや腸内環境の話に進む前に、まず一般的な小児科・小児消化器の評価を優先してください。
・ 体重が減っている、成長曲線が下向きになっている
・ 血便がある、発熱を伴う
・ 夜間に強い腹痛で目が覚める
・ 繰り返す嘔吐、強い下痢が続く
これらは、別の病気が隠れているサインのことがあります。当院でも、まずこうした危険なサインがないかを確認したうえで、栄養・腸内環境のアプローチに進みます。
検査の項目・費用について
発酵ガスの呼気検査を含む、当院で受けられる検査の具体的な項目や費用の目安は、当院ホームページの栄養外来のご案内ページにまとめています。あわせてご覧ください。
▶ 子どもの栄養外来(分子栄養学外来)のご案内・費用の目安を見る
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まとめ
・ 本来は少ないはずの小腸に細菌が増えすぎる状態が SIBO(小腸内細菌増殖)
・ 小腸での過剰な発酵で大量のガスが発生し、お腹の張り・腹痛・便通の乱れを起こす
・ ヨーグルト・食物繊維・発酵食品などの「腸活」が、かえってお腹の張りを悪化させることがある
・ 呼気検査は「陽性・陰性」で抗菌薬を出す検査ではなく、「今のお腹の発酵しやすさ」を見て治療ステップを決めるための検査
・ 当院は ラクツロースで大腸まで含めた発酵を見る方法を軸に、便秘とお腹の張りを一体で捉える
・ 整える順番は 引き算 → 渋滞を取る → 粘膜修復 → 少量ずつ再構築
「体質だから」とあきらめられがちなお腹の張り。その背景にある発酵のメカニズムを見える化して、遠回りしない改善の道すじを一緒に設計していきましょう。まずはお気軽にご相談ください。
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小森広嗣|こどもの栄養とお腹の専門医🌱 @KomoriKodomoCL
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この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
小児外科専門医・指導医、医学博士。東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。年間5,000組以上のお子さんとご家族の便秘・お腹の診療に携わる。腸の「構造(小児外科)」と「機能(栄養療法・分子栄養学)」の両面からアプローチする独自の診療スタイルで、お腹の不調の根本にアプローチする。