2026年5月31日
「うちの子の血液検査を受けたいのですが」というご相談が、ここ数年当院でも明らかに増えています。
一方で、小児科で「異常なし」と言われ、相談先に困って当院を訪ねる方も少なくありません。
この記事では、当院が栄養外来で大切にしている「3つの指標」と、その背景にある「保険診療の血液検査では見えにくいもの」について、小児外科専門医としての視点と、栄養療法の知見を掛け合わせて、できる限りていねいにお伝えします。
結論を先に言えば、「貧血なし=栄養が足りている」ではありません。
「血液検査で異常なし」と言われたお子さんへ — 親が抱える本当の不安
朝起きられない、すぐ怒る、よく風邪をひく、甘いものがやめられない…。
こうした症状で小児科を受診し、血液検査を受けた結果、「異常ありません。気持ちの問題でしょう」「成長期だから様子を見ましょう」と説明され、納得しきれずに帰ってきた経験はありませんか?
検査の数値だけでは語れない子どものSOSを、親はいつも隣で感じています。
「先生方が悪いわけではないけれど、何かがおかしい」。その直感は、多くの場合間違っていません。これは、保険診療の枠組みの違いから生じるすれ違いなのです。
なぜ「貧血なし」が安心ではないのか — 血液検査の『目的が違う』
保険診療の血液検査の主目的は、「病気か/病気でないか」を見分けることです。
対して、栄養療法の血液検査の主目的は、「最適な状態か/不足しているか」を見分けることです。
スマホの充電に例えてみましょう。
0%(電源が入らない)が「病気」だとすれば、100%が「最適」です。残量10%でも「壊れてはいない(病気ではない)」と判定されますが、30%以下になれば、普通は充電を意識するはずです。
ヘモグロビン(貧血の指標)が正常というのは、「最低限の輸血をしなくてよい状態」であって、「鉄が満ちている(100%)」というわけではないのです。
小森こどもクリニックが大切にしている3つの指標
「測って、狙って、確認する」が当院の基本姿勢です。とくに以下の3つは、初診時にお話を伺ったうえで「お子さんに必要であれば」必ずご提案する指標です。一般の小児科ではあまり測られない項目ですが、子どもの心と体を整えるための重要な鍵となります。
1. フェリチン — 鉄の「貯金」を見る指標
ヘモグロビンが「今財布に入っているお金」だとすれば、フェリチンは「銀行預金」です。
子どもは成長で鉄を大量消費します。そのため、「貯金」が尽きてから最後に貧血になります。私たちは、貯金が減っている段階で気づきたいのです。
当院の臨床感覚として、朝起きられない、メンタルが不安定、集中力が低下しているお子さんで、フェリチンが一桁台(貯金ほぼゼロ)に出会うことは珍しくありません。
2. 亜鉛 — 味覚・成長・免疫を支える「触媒」
亜鉛は体内の300以上の酵素の働きを助けるミネラルです。味覚の正常化、タンパク質の合成、免疫細胞の働きなど、あらゆる場面で活躍します。
不足すると、偏食(味が苦く感じる)、身長が伸びにくい、風邪をひきやすい、傷が治りにくいといった症状が現れます。「うちの子、白いご飯しか食べないんです」という偏食の背景に、亜鉛不足が隠れていることがよくあります。
3. 25-OH ビタミンD — 免疫と骨を支える「ホルモン」
ビタミンDは「ビタミン」と呼ばれていますが、実際にはホルモンに近い働きをします。カルシウム代謝だけでなく、粘膜免疫や自然免疫の調整役を担っています。
「25-OH型」という項目を測る理由は、体に貯蔵されているビタミンDの状態を最もよく反映するからです。当院の感覚では、日本の子どもたちは冬から春にかけて基準値を下回ることが多く、80%以上のお子さんで何らかの不足を経験しています。
3つの指標を「測ること」がもたらすもの
これらの数値を客観的に知ることで、ご家族に以下のような変化が生まれます。
・ 「気持ちや性格の問題ではなかったんだ」と分かる安心感
・ 数値という共通言語ができることで、家族内の会話が前向きに変わる
・ 食事だけで足りないときの「サプリメントの判断材料」ができる(推測ではなく根拠ある選択)
・ 治療効果を数値で確認できるので、「やっている意味があるのか」と迷わずに済む
それでも「血液検査は怖い」というお子さんへ
当院では、看護師やスタッフが事前にお子さんの目線に合わせてていねいにお声かけし、安心できる環境づくりに努めるなど、お子さんの恐怖心を和らげる工夫を行っています。
それでも、どうしても採血が難しい場合は無理をしません。問診と症状観察を最大限に活かしたアプローチから始めることも可能です。採血が難しい時こそ、専門家の管理下で安全に栄養を補っていくことが重要です。
当院の栄養外来における血液検査の進め方
当院の栄養外来では、初診時にじっくりとお話を伺ったうえで、お子さんに必要な検査項目をご提案します。
結果は単に数値を並べた紙をお渡しして終わりではありません。「この数値が意味することは何か」「どれから優先的に取り組むべきか」を書面にし、お子さんを元気にするための「作戦」として医師が直接ていねいに解説します。そして一度測って終わりではなく、3〜6か月後に再評価(確認)を行い、次のステップを一緒に考えていきます。
よくあるご質問
・ Q1. 一般の小児科で「異常なし」と言われたのですが、測る意味はありますか?
はい、あります。お話しした通り、「病気を見つける検査」と「栄養の不足を見つける検査」では、見ているポイントが違うからです。
・ Q2. 検査だけ受けることはできますか?
当院では、検査結果をもとに総合的なサポートを行うことを大切にしているため、検査のみのご希望はお受けしておりません。
まとめ — 測らないと、見えない
「気のせいかもしれない」と感じながら過ごす日々と、「数値という根拠を持って一手を打てる」日々は、まったく違う景色を映します。
当院は、小児外科専門医としての視点と、栄養療法の知見を掛け合わせて、お子さんの「貯金残高」を可視化し、ご家族と一緒に整えていきます。
すべてのお子さんに採血が必要という意味ではありません。「気になっているなら、まず話を聞いてみる」から始めていただければと思います。
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「血液検査」や「足りない栄養素」について、もう少し詳しく知りたい方はこちらもどうぞ。
・ 朝起きられない子と鉄不足 — フェリチンの正体
・ ビタミンDサプリは危険?小児科学会の報告と当院の安全管理
・ 子どもが甘いものをやめられない — 糖質依存と鉄欠乏
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小森広嗣|こどもの栄養とお腹の専門医🌱 @KomoriKodomoCL
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この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部卒。都立小児総合医療センター外科医長などを経て小森こどもクリニックを開院。小児科医・小児外科専門医として数多くのおなか(消化管)の手術や治療に携わり、「こどものお腹のスペシャリスト」として消化管の構造と機能に精通する。
自身や家族の不調が栄養療法で改善した手応えから、「西洋医学だけでは届かない不調」の解決策として「栄養」の重要性を確信。「吸収の場である腸」と「体の材料となる栄養」の両面から、標準治療と分子栄養学を柔軟に組み合わせ、その子の体の土台を根本から整える「統合的な医療」を実践している。日本小児外科学会認定専門医・指導医、医学博士。