2026年5月28日

「子どもの機嫌が毎日悪くて、つい怒ってしまいます。私の育て方が悪いんでしょうか」
栄養外来の診察室で、そうおっしゃるお母さんは少なくありません。
お子さんの検査をして、鉄やタンパク質が不足していることがわかる。食事の見直しやサプリメントの活用を始める。でも、なかなか思うように回復しない——そんなときに、私がお聞きするのがこの問いかけです。
「お母さん自身の鉄は、測ったことありますか?」
すると多くの方が、「私は……考えたこともなかったです」と答えられます。
お母さんと子どもの栄養は「地続き」
子どもが鉄不足に陥っている場合、同じ食卓を囲んでいるお母さんもまた鉄が不足している可能性が高いのです。加えて、女性は毎月の月経、そして妊娠・出産・授乳で、男性や子どもとは比較にならないほどの鉄を消費しています。
お母さんのフェリチン(鉄の貯金)が底をついていると、体にはこんなサインが現れます。
・ 常に疲れていて、朝起き上がるのがつらい
・ ちょっとしたことでイライラが止められず、子どもにきつく当たってしまう
・ 気持ちが沈みやすく、「自分がダメな母親だ」と責めてしまう
・ 甘いものやカフェインに頼らないと一日もたない
こうした状態は、「育児のストレス」や「性格」だけで説明がつくものではありません。体の側に物理的な理由があることが、実はとても多いのです。
飛行機の酸素マスクの原則
「私のことはいいんです。まずは子どものことを」
そう言ってご自身のケアを後回しにするお母さんは、とても優しい方です。でも、飛行機で緊急時の酸素マスクが下りてきた時、「まず大人がマスクをつけてから、お子さんに」と案内されるのには理由があります。大人が酸欠で倒れてしまっては、子どもを助けることができないからです。
子どもは親の感情を、驚くほど正確に感じ取っています。
お母さんが慢性的な疲労やイライラを抱えていると、その緊張感は子どもに伝わります。お子さん自身も栄養が足りていない状態にあるところへ、お母さんの不安定さが重なると、お互いの不調が共鳴し合ってしまうことがあるのです。
反対に、お母さんの鉄が満たされて心にゆとりが戻ると、子どもの多少のワガママも受け止められる余裕が生まれます。お母さんが穏やかでいると、子どもも安心してリラックスし、結果的に食事がしっかり摂れるようになったり、腸のリズムが整ったりする。
つまり、「お母さんが先に整うこと」が、家族全体の体調を良い方向に向かわせる起点になるのです。
腸の状態が「お母さんの吸収力」にも影響する
お母さん自身が便秘がちだったり、胃もたれしやすかったりする場合、食事から鉄を摂っても十分に吸収されていない可能性があります。腸は栄養の入り口です。入り口の状態が整っていなければ、いくら食事を工夫しても体に届きにくくなります。
お子さんの便秘を相談しに来たお母さんご自身が、実は同じように腸の不調を抱えていた——そんなケースは決して珍しくありません。
今日からできること
・ まず「自分も鉄が足りていないかもしれない」と意識してみること。それだけで食事の選び方が変わります
・ 赤身の肉(牛もも肉、豚もも肉)やカツオ、しじみなどを、お子さんと一緒に食卓に
・ 朝食にタンパク質を一品(卵、納豆など)足すことは、お母さんにも子どもにも効きます
・ 甘いものへの渇望がひどい場合は、鉄不足のサインかもしれません。責めずに「体の声」として受け止めてみてください
お母さんの体もまた、長年の妊娠・出産・授乳で「貯金」を切り崩してきた体です。回復には時間がかかりますが、毎日少しずつ積み上げることに意味がないわけではありません。体への投資は、必ず返ってきます。
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おわりに
子どもの不調は、「お母さんの育て方のせい」ではありません。
そして、お母さん自身のイライラや疲れも、「弱さ」ではありません。
体に必要な材料が足りていなかっただけかもしれない。方法に出会えていなかっただけかもしれない。そう思えるだけで、自分を責める必要がなくなります。
当院の栄養外来では、お子さんだけでなくご家族全体の栄養状態を見ることを大切にしています。お母さんが元気になることが、結局は子どもにとっても一番の贈り物になるからです。
この症状をもう少し深く知りたい方へ
「うちの子も、もしかして」と思われた方は、
栄養外来のご案内ページで、当院の取り組みをご覧ください。
▶ 子どもの便秘と栄養|鉄・ビタミンD不足と「入れる順番」(便秘専門サイト)
お腹と栄養のつながりを、便秘専門サイトで解説しています。
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「うちの子はどうだろう」と確かめてみたい方へ
お子さんの鉄の貯金がどれだけ残っているかは、血液検査で確かめられます。当院の子どもの栄養外来(分子栄養学外来)では、症状・食べ方・便の様子までうかがったうえで、お子さん一人ひとりに合わせて組み立てていきます。
ご予約は、当院ホームページの予約システム(デジスマ診療アプリ)から承っています。
すでに通院中の方へ:体の材料の変化は、数ヶ月かけて少しずつ表れます。3ヶ月目の再検査で、ここまでの変化と次の一歩を一緒に確かめましょう。
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小児外科医 小森広嗣🩺栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
小児外科専門医・指導医、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。小児外科の出身として、いまは地域の中で、お腹と栄養の外来を深く追求している。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療と情報発信の両輪で活動している。
▶ 著書:『うんちが出ない!』(英智舎・2026年12月9日発売)
▶ 取材・講演のお問い合わせ:press@komori-kodomo.com