2026年5月22日

「小児科で血液検査をしてもらったんです。異常なしって。でも、この子はずっとしんどそうで…」
お母さんの言葉にはいつも、安堵と困惑が同時に混じっています。
「病気じゃなくてよかった」という安心と、「じゃあこの不調はなんなんだろう」という行き場のない気持ち。当院の栄養外来では、そうした方とお話しする機会がとても多いです。
まずは、こちらの5分の動画をご覧ください。
「異常なし」と言われて不安な親御さんに向けた、当院からのメッセージです。お子さんの「つらい」は気のせいでも、努力不足でもありません。
また、症状の名前は違っても、その奥に隠れた「土台」には共通点があることがとても多いです。現場でよく出会う3つのパターンについても、こちらの動画でお話ししています。
まず最初にお伝えしたいのは、「異常なし」と言ってくださった先生の判断が間違っていたわけではない、ということです。これは、保険診療と栄養療法における「検査の目的」そのものが違うことから生まれるすれ違いです。
「病気かどうか」を見る検査と、「足りているかどうか」を見る検査
保険診療の血液検査は、重篤な疾患——重い感染症や臓器の機能不全、高度な貧血——が隠れていないかをすばやく見つけ出すための仕組みです。その枠組みで「異常なし」であれば、「今すぐ命に関わるような病気はありませんよ」という安心の証明になります。それ自体は、とても大切な工程です。
一方、栄養療法が見ているのは、「体が本来のちからを十分に発揮できる状態にあるか」という視点です。病気ではないけれど、エネルギーや材料がギリギリの状態で日々をしのいでいる——そういう子どもたちに気づくための読み方です。
同じ数値を「栄養の目」で読み直すと
いくつか、代表的な例を挙げてみます。
ヘモグロビンが正常でも、「フェリチン」が一桁
もっとも多いすれ違いです。ヘモグロビンが基準値に入っているから「貧血なし」と判定されますが、その裏で鉄の貯蓄(フェリチン)が底をついていることがあります。
体は賢いので、命に関わるヘモグロビンだけはギリギリまで維持しようとして、貯蓄のほうを先に使い切ります。財布の現金はなんとか残っているけれど、銀行口座はゼロ——という状態です。これでは朝起きられなかったり、集中が続かなかったりするのは無理もありません。
肝機能(AST/ALT)が正常の範囲内でも、低すぎる
健康診断では「高くないか」に注目する数値ですが、栄養の視点では「低すぎないか」にも意味があります。ASTやALTが一桁台の場合、これらの酵素を動かすのに必要なビタミンB6やタンパク質が極端に足りていないサインかもしれません。「正常の範囲内」であっても、その子にとっては不足の入口に立っている可能性があるのです。
コレステロールが低い — 大人なら「良好」でも、子どもでは
大人の健診では喜ばれる「コレステロールが低い」という結果も、成長期の子どもでは慎重に見る必要があります。コレステロールは細胞膜の材料であり、性ホルモンやストレスに対抗するホルモンの原料でもあるからです。
「基準値」と「その子にとっての最適値」
検査用紙の右側にある「基準値」は、広い母集団から統計的に作られた「この範囲に入っていれば病的とは言えない」というラインです。
栄養療法が重視するのは、それとは別の問いかけです。「この子の細胞が、いちばん元気に働ける数値はどこだろう?」——基準値のいちばん下に張りついている状態を「正常」と見なすのではなく、もう少し引き上げてあげれば日常が楽になるのではないか、という視点で読み解きます。
腸の状態が、すべての「吸収」を左右する
もう一つ、血液データだけでは見えにくいことがあります。それは、腸の消化吸収能です。
いくら良い食事を摂っていても、腸の粘膜が荒れていたり、便秘で腸内環境が乱れていたりすると、栄養はきちんと体に届きません。小児外科医として長年腸を診てきた実感として、慢性便秘のあるお子さんは栄養の吸収効率が低下しているケースが少なくありません。
血液データを読み解くときは、「入り口(食事)」だけでなく「通り道(腸)」の状態も一緒に見ることが大切です。
今日からご家庭で意識できること
数値の読み直しは専門家に任せるとして、ご家庭でできることもあります。
・ お手元に他院の血液検査の結果があれば、次回受診時にお持ちください。一緒に読み解きます
・ 食事で意識するなら、まず「朝食にタンパク質を一品」。卵、納豆、しらす——なんでも構いません
・ お通じの記録をつけてみる。排便リズムは腸の健康を知る手がかりになります
特別なことをする必要はありません。「毎日の食べ物と、腸の環境を大切にする」。大きな方向性はこれに尽きます。
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おわりに
「異常なしと言われたのに不調が続く」という経験は、親御さんにとって孤独なものです。
「気のせいかもしれない」と思い込もうとしたり、「自分の育て方が悪いのでは」と自分を責めてしまったり。
でも、検査の「目的」を変えるだけで、同じ数値が違う景色を見せてくれることがあります。
お子さんの不調に気づいている、その直感をどうか大切にしてください。
この症状をもう少し深く知りたい方へ
「うちの子も、もしかして」と思われた方は、
栄養外来のご案内ページで、当院の取り組みをご覧ください。
【▶ 栄養外来のご案内を見る】
▶ 子どもの便秘と栄養|鉄・ビタミンD不足と「入れる順番」(便秘専門サイト)
お腹と栄養のつながりを、便秘専門サイトで解説しています。
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「うちの子はどうだろう」と確かめてみたい方へ
「異常なし」と言われた不調の背景に栄養があるかどうかは、血液検査で確かめられます。当院の子どもの栄養外来(分子栄養学外来)では、症状・食べ方・便の様子までうかがったうえで、お子さん一人ひとりに合わせて組み立てていきます。
ご予約は、当院ホームページの予約システム(デジスマ診療アプリ)から承っています。
すでに通院中の方へ:体の材料の変化は、数ヶ月かけて少しずつ表れます。3ヶ月目の再検査で、ここまでの変化と次の一歩を一緒に確かめましょう。
診察室の外の発信
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小児外科医 小森広嗣🩺栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
小児外科専門医・指導医、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。小児外科の出身として、いまは地域の中で、お腹と栄養の外来を深く追求している。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療と情報発信の両輪で活動している。
▶ 著書:『うんちが出ない!』(英智舎・2026年12月9日発売)
▶ 取材・講演のお問い合わせ:press@komori-kodomo.com