2026年4月19日

監修:小児外科専門医 小森 広嗣(小森こどもクリニック院長)/最終更新:2026年10月18日
📖 この記事はこんな方へ(朝起きられないシリーズ:入口編)
「朝起きられない」「疲れやすい」を、はじめて栄養から考えてみたい方、「フェリチン」という言葉を最近知った方に向けた、シリーズの入口の記事です。もう一段深く知りたい方は、記事の最後の関連記事もご覧ください。
「何度起こしても起きない」
「午前中、ずっとボーッとしている」
「健診では貧血と言われなかったのに、すぐ疲れてしまう」
こうした姿が続くと、「夜更かしのせい?」「気合いが足りない?」と、つい言いたくなるものです。
最初にお伝えしたいことがあります。
朝起きられない、すぐ疲れるのは、本人の意志や根性だけの問題ではありません。その奥に、体の鉄の貯金=フェリチンが足りていないことが隠れている場合があります。「貧血ではない」と言われていても、です。
今日は、フェリチンとは何か、そしてフェリチンを増やすにはどうすればいいかをお話しします。
「朝起きられない」「頭が痛い」——そんなお子さんの症状の奥に何が隠れているのか。動画でも解説しています。「もしかして、うちの子のことかも?」という視点でご覧ください。
フェリチンと鉄の違い——体の鉄は「3つの場所」で見ます
「鉄が足りない」と一口に言っても、体の中の鉄は、いくつかの場所に分かれています。血液検査では、主に次の3つを見ます。
・ヘモグロビン:血液の中で酸素を運んでいる鉄。お財布の中のお金のようなもの
・血清鉄:いま血液の中を流れている鉄。その日の出入りで変わりやすい
・フェリチン:体にたくわえている鉄の量の目安。銀行の預金のようなもの
体は、生きるためにいちばん大切な「お財布の中身(ヘモグロビン)」を、できるだけ一定に保とうとします。預金(フェリチン)を取り崩してでも、です。
だから、ヘモグロビンが正常でも、フェリチンは空っぽということが起こります。これを隠れ貧血(潜在性の鉄不足)と呼びます。健診や一般的な血液検査で「貧血なし」と言われても、預金までは見ていないことが多いのです。
預金がほとんどない状態で、毎日を元気に過ごすのは大人でもつらいものです。財布の中身だけで、ぎりぎりやりくりしている。それが、朝起きられない子の体の中で起きていることです。
鉄が足りないと、なぜ朝起きられないのか
体のエネルギー(ATP)は、細胞の中の「発電所」でつくられています。この発電所が動くために欠かせない材料が、鉄です。そして体の電気は、ためておけません。毎日、その日に使う分をつくり続けています。
鉄の貯金が底をつくと、発電所の力が落ちます。すると、こんなことが連鎖します。
・エネルギーが足りず、朝から体が重い、疲れやすい
・脳が手っ取り早いエネルギーを求めて、甘いものを欲しがることがある
・甘いもので血糖が上がり下がりしやすくなり、夜の眠りに響くこともある
・眠りの質が落ちて、また朝起きられない
さらに鉄は、眠りを誘うホルモン(メラトニン)や、やる気・集中を支える脳の物質をつくる途中でも必要になります。当院では、鉄を、元気・眠り・やる気をつなぐ土台の一つとして見ています。
こんなサインがあれば、鉄の貯金を疑ってみてください
・朝、何度起こしても起きられない
・午前中は機嫌が悪く、ボーッとしている
・夕方になると「疲れた」と横になる
・集中力が続かない、授業中ぼんやりしている
・神経質で、ささいなことでイライラしやすい
・甘いものやジュースを強く欲しがる
・氷をガリガリ食べるのが好き
・爪が割れやすい、反り返っている
・顔色がさえない
・階段ですぐ息が切れる
・寝る前に脚をむずむず動かす
いくつか当てはまるなら、鉄の貯金を確かめてみる価値があります。
ひとつ、大切な線引きをお伝えします。鉄のお薬を飲んでいないのに便が黒い、便に血が混じる、あざが増えた・鼻血が止まりにくい、体重が減ってきた、ひどい頭痛や吐き気が続くというときは、栄養の話より先に、一度きちんと診察で確かめてください。
フェリチンを増やすには——4つの見直し
ここからが、いちばんご質問の多いところです。フェリチン(鉄の貯金)を増やすには、入れる・吸収する・減らさない・待つの4つを見直します。
① 入れる:「ヘム鉄」とタンパク質を、毎食に
鉄には、肉や魚に多いヘム鉄と、野菜や大豆、海藻に多い非ヘム鉄があります。体に取り込まれやすいのは、ヘム鉄です。
・赤身の肉(牛肉・豚肉)、レバー
・カツオ、マグロ、イワシなどの魚
・あさり、しじみなどの貝
・卵
そして、鉄と同じくらい大切なのがタンパク質です。鉄は、タンパク質と一緒になって運ばれ、たくわえられます。鉄だけ足しても、タンパク質が足りなければ、貯金はなかなか増えません。朝・昼・夜の毎食に、肉・魚・卵・大豆製品のどれかをひとつ。ここが出発点です。
② 吸収する:組み合わせと、お腹の調子
同じ量を食べても、吸収のされ方は組み合わせで変わります。
・ビタミンCと一緒に:野菜や果物と組み合わせると、非ヘム鉄の吸収が上がります
・食事中のお茶・コーヒーは控えめに:お茶の成分が、鉄の吸収を妨げることがあります。食事のときは水や麦茶に
・牛乳の飲みすぎに注意:牛乳でお腹がいっぱいになると、鉄を含む食事が入らなくなります。とくに幼児では、牛乳の飲みすぎが鉄不足のきっかけになることがあります
そして見落とされやすいのが、お腹(腸)です。腸は、鉄を体に取り込む入口です。便秘や下痢、お腹の張りがあって腸の調子が乱れていると、せっかく食べた鉄も届きにくくなります。鉄を足しても増えないときは、お腹の側から見直すのが当院の考え方です。
③ 減らさない:鉄を使っている・失っている原因を知る
貯金が減るのは、入るお金が少ないときだけではありません。出ていくお金が多いときにも減ります。
・成長期:背が伸び、筋肉や血液が増える時期は、鉄の必要量がぐっと増えます
・部活や激しい運動:汗や、体への負担で鉄が多く使われます
・生理:思春期の女の子は、毎月の生理で鉄を失います
・お腹からの出血:まれですが、鉄のお薬を飲んでいないのに便が黒い、便に血が混じるときは、出血で鉄を失っていることがあります
「食べているのに増えない」ときは、入る量より、出ていく量が多いことがあります。ここは、問診と検査で一緒に確かめるところです。
④ 待つ:貯金が満ちるには、数か月かかります
鉄を補い始めると、まずヘモグロビン(お財布)が先に戻り、フェリチン(預金)はそのあとから、ゆっくり増えていきます。体は、財布を満たしてから、貯金に回すからです。
ですから、フェリチンが満ちてくるまでには、数か月を見てください。2〜3週間で「変わらない」とやめてしまうのは、とてももったいないことです。当院では、3か月ごろにもう一度検査をして、貯金の戻り具合を確かめます。
鉄のサプリメントについて
食事だけでフェリチンを大きく増やすには、とても時間がかかります。貯金がかなり減っているときや、肉や魚をなかなか食べられないときは、サプリメントやお薬で補うこともあります。
ただし、鉄は自己判断で始めないでください。
・鉄は、足りなくても多すぎても体の負担になります。お薬やサプリメントは、子どもの手の届かないところに保管してください
・お腹の状態によっては、お腹が痛くなる・便秘がひどくなることがあります。その場合は、お腹を整えるのを先にして、鉄はあとから入れることもあります
・どの形の鉄を、どのくらい、どの順番で使うかは、検査とお腹の様子を見ながら、医師と一緒に決めるところです
数字の読み方で、気をつけたいこと
フェリチンは、とても役に立つ指標ですが、ひとつだけ注意があります。
風邪や体の中の炎症があるときは、フェリチンが高めに出ることがあります。本当は貯金が少ないのに、数字だけ見ると足りているように見えてしまうのです。
だから当院では、フェリチンを一つの数字だけで判断せず、炎症の有無や、ほかの項目と並べて読みます。そして、もし調べるなら、鉄のサプリメントを始める前がいちばん役に立ちます。あとからだと、比べるもとがなくなってしまうからです。
鉄と眠り
「鉄分と睡眠」を気にして調べている方も多いようです。
鉄は、眠りを誘うホルモンをつくる途中で必要になります。また、寝る前に脚をむずむず動かす、寝つくまでに脚をさすってほしがる、というお子さんでは、鉄の貯金が少なくなっていることがあります。
眠りと血糖の関係は、別の記事で詳しくお話ししています(下の関連記事からどうぞ)。
鉄の役目は、土台を上げることです
鉄の貯金が満ちてくると、朝の起きやすさや、夕方の元気が変わってくるお子さんを、当院では見てきました。
ただ、鉄だけですべてが解決するわけではありません。睡眠、生活リズム、血糖の揺れ、心の状態。朝起きられない背景には、いくつもの要因が重なっています。起立性調節障害など、別の評価が必要なこともあります。
当院がしているのは、体の土台を上げることです。土台が整えば、その子が本来もっている力を、発揮しやすくなります。
受診されたら、何をするのか
はじめて栄養外来にお越しいただいた日は、こんな流れになります。
・問診:朝の様子、睡眠、食事(肉・魚・牛乳・甘いものの量)、部活、便の様子、生理の様子(女の子の場合)までを一通りうかがいます
・診察:全身の状態と、お腹を診ます
・血液検査:ヘモグロビンだけでなく、フェリチンなど鉄の貯金と、炎症の有無、タンパク質の状態を合わせて読みます
・方針決め:食事の工夫と、必要なら鉄などの補いを、順番と量を決めて組み立てます
来院前に、見ておいていただけると助かること
・朝起きられない・疲れやすいのは、いつごろからか
・食事の様子(肉・魚・卵、牛乳、甘いもの・ジュースの量)
・部活や運動の量
・便の回数と形、便の色
・生理の様子(女の子の場合)
・いま飲んでいるサプリメントの名前と量
・他院での血液検査の結果があれば、そのコピー
合わせて読みたい関連記事
「朝起きられない」シリーズの、もう一段深い記事です。お子さんの様子に近いものから読んでみてください。
・朝起きられない・慢性疲労が「治らない」本当の理由——血糖値・鉄・エネルギーの三位一体を整えるとはどういうことか(中級:血糖・鉄・エネルギー)
・【小児外科専門医が解説】起立性調節障害(OD)と血糖値の意外な関係——腸と栄養の専門医の視点(起立性調節障害と診断された方へ)
・中学生になった途端、崩れた。——「部活・生理・成長」が重なる思春期女子の鉄欠乏という見えない危機(中学生以上・女の子)
・寝つきが悪い・夜中に何度も起きる子は夜間低血糖かも|寝る前の甘いものと眠りを小児外科医が解説(眠りと血糖)
・集中力が続かない・落ち着きがない子は鉄不足かも|脳の材料を小児外科医が解説(集中と鉄)
・子どもの鉄剤で便が黒い・お腹が痛いのはなぜ?|鉄の種類と腸の関係を小児外科医が解説(鉄剤とお腹)
・子どもの便秘と栄養|鉄・ビタミンD不足と「入れる順番」(便秘専門サイト)
まとめ
・朝起きられない、すぐ疲れるのは、意志や根性だけの問題ではありません。鉄の貯金=フェリチンが足りないことがあります
・ヘモグロビンが正常でも、フェリチンが空っぽのことがあります(隠れ貧血)
・フェリチンを増やすには、入れる(ヘム鉄とタンパク質を毎食)・吸収する(ビタミンCと組み合わせ、食事中のお茶と牛乳の飲みすぎに注意、お腹を整える)・減らさない(成長・運動・生理・出血を知る)・待つ(数か月)
・鉄を補うと、ヘモグロビンが先、フェリチンはあと。3か月ごろに確かめます
・鉄のサプリメントは自己判断で始めない。多すぎても負担になり、お腹の状態で順番が変わります
・炎症があるとフェリチンは高めに出ることがあります。一つの数字で判断しません
・鉄のお薬を飲んでいないのに便が黒い、血が混じる、体重が減るときは、先に診察で確かめます
原因がわかれば、打つ手の順番が決まります。鉄の貯金が少しずつ満ちていけば、朝の景色は、少しずつ変わっていきます。
今日から、ひとつだけ
本文でいくつかお伝えしましたが、全部を一度にやる必要はありません。まずは明日の朝ごはんに、卵か、肉・魚を一品。そして食事のときの飲み物を、お茶から水や麦茶に。それだけで、鉄の入り方が変わりはじめます。
栄養のヒントを、LINEで受け取る
鉄を増やす食べ方、吸収のコツ、季節や成長に合わせた気をつけどころ。診察室では話しきれないことや、「今日ひとつだけできること」を、小森こどもクリニック 栄養の公式LINEで少しずつお届けしています。何から始めればいいか迷う方は、ここから受け取ってください。
「うちの子はどうだろう」と確かめてみたい方へ
「朝起きられない」「すぐ疲れる」と言われてきたお子さんで、詳しい血液検査をしてみると「貧血なし」なのにフェリチンが大きく下がっていた、というケースを当院では多く経験しています。鉄の貯金がどれだけ残っているかは、血液検査で確かめられます。当院の子どもの栄養外来(分子栄養学外来)では、睡眠・食事・便の様子までうかがったうえで、腸の状態も含めて、お子さん一人ひとりに合わせて組み立てていきます。
ご予約は、当院ホームページの予約システム(デジスマ診療アプリ)から承っています。
すでに通院中の方へ:フェリチンは、数か月かけて少しずつ戻っていきます。3か月目の再検査で、貯金の戻り具合と次の一歩を一緒に確かめましょう。
診察室の外の発信
診察室では話しきれないこと、医師が何を考えながら診ているのかを、Xでも書いています。
小児外科医 小森広嗣🩺栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
小児外科専門医・指導医、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。小児外科の出身として、いまは地域の中で、お腹と栄養の外来を深く追求している。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療と情報発信の両輪で活動している。
▶ 著書:『うんちが出ない!』(英智舎・2026年12月9日発売)
▶ 取材・講演のお問い合わせ:press@komori-kodomo.com