2026年10月24日

「鉄がいいと聞いて飲ませてみたら、お腹が痛くなって続きませんでした」
「プロテインを足しているのに、なかなか元気になりません」
「調べれば調べるほど、何から始めればいいのか分からなくなってしまって」
栄養に関心を持ったご家族ほど、こうした壁にぶつかります。良いと聞いたものを取り入れているのに、思ったように変わらない。がんばっているぶん、がっかりも大きくなります。
最初にお伝えしたいことがあります。
子どもの栄養は、「何を足すか」の前に、「どこから整えるか」で届き方が変わります。
当院の栄養外来では、子どもの体を5つの土台に分けて、下から順に見ています。今日は、その順番のお話です。
家を建てるときと、同じ順番です
家を建てるとき、いきなり立派な柱を立てる人はいません。まず地盤を固め、基礎を打ち、その上に柱を立てて、屋根をかけます。地盤がゆるいまま柱を立てても、家は傾いてしまいます。
子どもの体も同じです。
鉄やタンパク質は、体にとって大切な「柱」です。けれど、それを受けとめる地盤が整っていないと、せっかくの柱がうまく立ちません。鉄でお腹が痛くなる、プロテインでお腹が張る。そうしたことが起きる背景には、柱を受けとめる地盤のほうに、まだ準備が足りていないことがあります。
当院が見ている5つの土台は、下から順に、こう並んでいます。
・① お腹(消化と吸収):食べたものを、体に届ける入口
・② 元気(エネルギー):体と脳を動かす電気をつくる
・③ 安定(血糖):心と体の揺れを小さくする
・④ 守り(免疫):体の中の小さな火事を消す
・⑤ 成長(材料):体と脳を、大きく育てる
そして、この5つ全部を、下から支えているのが毎日の食べるものと、暮らしです。
① お腹——すべての入口
いちばん下にあるのが、お腹です。
どんなに良いものを食べても、消化して、吸収できなければ、体の一部にはなりません。栄養は、口に入れた時点ではまだ「体の外」にあります。お腹で分解され、腸から吸収されて、はじめて体の中に届きます。
のどから腸まで、消化管はひとつづきの管です。当院がふだん、お腹の外来で診ているのも、この管です。この管のどこかで、うまく分解できない、吸収できない、炎症がある。そうすると、食べているのに足りない、ということが起こります。
ここには、もうひとつ大切なことがあります。お腹の不調は、それ自体が困りごとであると同時に、「栄養が届かない原因」でもあるということです。便秘や下痢、お腹の張り、食べるとすぐお腹いっぱいになる。こうしたサインがあるときは、栄養を足すより先に、まずお腹を整えます。
こんなサインはありませんか。
・便秘や下痢がある、便の形が日によってばらばら
・お腹が張る、ガスがたまりやすい、ゴロゴロ鳴る
・食べ始めるとすぐ「お腹いっぱい」になる
・口のまわりが荒れやすい
② 元気——体の電気をつくる
お腹から栄養が届くようになったら、次は元気です。
体も脳も、動くためにはエネルギーが要ります。このエネルギーは、細胞の中で、食べたものを材料につくられています。その変換に欠かせないのが、鉄とビタミンB群です。
体のエネルギー(ATP)には、大切な特徴があります。ためておけないということです。だから体は毎日、その日に使う分をつくり続けています。鉄やB群が足りないと、この毎日の発電がうまくいかず、疲れやすい、集中が続かない、朝起きられない、といった形で現れます。
血液検査で「貧血はありません」と言われても、体にたくわえている鉄(鉄の貯金)が底をついていることがあります。ここは、気づかれにくいところです。
③ 安定——揺れを小さくする
3つめは、安定。血糖の安定です。
甘い飲み物やお菓子で血糖が急に上がると、その反動で急に下がります。下がるとき、体は「危ない」と受けとめて、アドレナリンなどのホルモンを出します。これが、イライラや癇癪、集中の切れ、夜中の目覚めとして現れることがあります。
大切なのは、症状を作っているのが血糖の高さではなく揺れだということです。甘いものを禁止するのではなく、揺れを小さくする工夫をします。
血糖の安定は、②の元気とも深くつながっています。鉄が足りないと血糖も不安定になりやすく、血糖が揺れると、エネルギーづくりも乱れます。
④ 守り——体の中の小さな火事を消す
4つめは、守りです。
体の中で、小さな炎症が続いていることがあります。目に見えない、小さな火事のようなものです。この火事がくすぶっていると、湿疹が治りにくい、風邪をひきやすい、アレルギーが続く、といった形で現れることがあります。
この火事に関わるのが、油の種類と、ビタミンD・亜鉛です。油には、炎症を起こしやすい油と、炎症を鎮める方向に働く油があります。揚げ物や加工食品に多い油が増えて、魚の油が減ると、火事は消えにくくなります。
守りの土台は、①のお腹ともつながっています。腸は、体の守りの大きな拠点でもあるからです。
⑤ 成長——ようやく、体と脳を育てるところへ
いちばん上にあるのが、成長です。
子どもは、毎日、体を大きくしています。そのための材料が、タンパク質、良質な脂質、亜鉛、鉄です。脳のおよそ6割は脂質でできていて、良質な脂は脳の発達に欠かせません。
ここで、最初の話に戻ります。
成長の材料を足すのは、とても大切なことです。けれど、①〜④の土台が整っていないと、せっかくの材料は、体を育てるところまで届きにくくなります。お腹で吸収できない、エネルギーをつくるために使われてしまう、火事を消すために使われてしまう。下の土台が整ってはじめて、材料は「育てる」ために使われるようになります。
見る順番はあっても、暮らしの中では「同時に、少しずつ」
ここまで、下から順にお話ししてきました。ただ、誤解のないように、ひとつ付け加えます。
この順番は、どこから確かめ、どこから手をつけるかを決めるための順番です。「お腹が完璧になるまで、ほかは何もしない」という意味ではありません。
実際の暮らしの中では、栄養と生活を、同時に、少しずつ整えていきます。栄養が足りないと眠りの質が上がらない。眠りが足りないと、栄養がうまく使われない。どちらかを完璧にしてから、ではなく、両方を、できる範囲で同時に。
また、5つの土台のどこから手をつけるかは、お子さんによって違います。お腹にはまったく困っていないお子さんもいますし、血糖の揺れがいちばん大きいお子さんもいます。全員が同じ順番で、同じことをするわけではありません。どこが一番ぐらついているかを確かめて、そこから始めます。
そして、5つの土台すべてを横切って支えているのが、鉄です。エネルギーをつくる、血糖を安定させる、守りを支える、成長の材料になる。鉄はどの段にも顔を出します。当院が鉄を丁寧に見ているのは、このためです。
順番を飛ばすと、遠回りになることがあります
栄養外来では、こんなご相談をよく受けます。
・鉄のサプリメントを始めたら、お腹が痛くなった、便秘がひどくなった
・プロテインを足したら、お腹が張って、かえって食欲が落ちた
・いろいろなサプリメントを足したけれど、何が効いているのか分からない
どれも、ご家族が一生懸命に取り組んだ結果です。足したものが間違っていたわけではありません。まだ、それを受けとめる土台の準備が整っていなかったのです。
順番を飛ばすと、届かない栄養にお金と時間を使ってしまい、「やっぱり栄養は効かない」とあきらめてしまうことがあります。それが、いちばんもったいないことだと考えています。
血液検査で、どの土台から整えるかを決める
では、どの土台がぐらついているのかは、どうやって分かるのか。
当院が大切にしているのは、推測ではなく、確かめることです。お子さんの様子をうかがい、お腹を診て、血液検査で、5つの土台のどこが足りていないのかを見ていきます。
ここには、二つの視点があります。ひとつは、医師の視点。症状から、調べる範囲を決めます。もうひとつは、ご家族の視点。体の土台を、もう少し広く見ておきたいという希望に合わせて、範囲を広げることもできます。
血液検査の一つひとつの数字は、それだけでは読みきれません。鉄も、タンパク質も、血糖も、他の数字と並べて、はじめて意味が見えてきます。だから当院では、いくつかの項目を合わせて読み、5つの土台の地図として組み立てます。
そして、もし調べるなら、食事やサプリメントを始める前がいちばん役に立ちます。あとからだと、比べるもとがなくなってしまうからです。
栄養の役目は、土台を上げることです
土台が整ってくると、疲れにくくなる、気持ちが安定する、よく眠れる、食べられるものが増えるお子さんを、当院では何人も見てきました。土台が変わると、体も、行動も変わります。
ただ、栄養は万能ではありません。
生まれ持った体質、これまでの経験、家庭や学校の環境。栄養だけで、そのすべてが変わるわけではありません。治療が必要な病気があれば、そちらの治療が先です。
当院がしているのは、土台を上げることです。土台が整えば、その子が本来もっている力を、発揮しやすくなります。
どれくらいで変わるのか
土台は、一日では整いません。お腹が落ち着くまでに数週間、鉄の貯金が満ちてくるまでに数か月。土台づくりは、数か月単位の道のりです。
途中で「あまり変わらない」と感じる時期があります。その時期があること自体は、うまくいっていない印ではありません。
変化は、こんな形でやってきます。
「そういえば最近、お腹が痛いと言わなくなった」
「夕方まで、前より元気に遊んでいる」
気づいたら、変わっていた。だからこそ、ご家族が小さな変化に気づいてあげてください。
受診されたら、何をするのか
はじめて栄養外来にお越しいただいた日は、こんな流れになります。
・問診:困っていること、食事の様子、便の様子、睡眠、これまでに試したサプリメントまでを一通りうかがいます
・診察:全身の状態と、お腹を診ます
・血液検査:5つの土台のどこが足りていないかを、いくつかの項目を合わせて読みます
・方針決め:どの土台から手をつけるかを決め、食事の工夫と、必要ならサプリメントを、ご家庭で続けられる形に組み立てます
一度にすべてを変えることはしません。どこから始めるかを、ご家族と一緒に決めます。
鉄などのサプリメントは、自己判断で始めないでください。お腹の状態によっては合わないことがあり、量とタイミングに工夫が要ります。ここは検査を見ながら、医師と一緒に決めるところです。
来院前に、見ておいていただけると助かること
・いちばん困っていること(いつから・どんなときに)
・便の回数と形、お腹の張りや痛み
・食べられるもの、苦手なもの、甘い飲み物やお菓子の量
・寝る時刻と起きる時刻、朝の様子
・これまでに試したサプリメントと、そのときの様子
・他院での血液検査の結果があれば、そのコピー
・お薬手帳
メモしておいていただけると、初診の時間を「その子固有の話」に使えます。
「うちの子はどうだろう」と思われたら
良いと聞いたものを試して、思うように変わらなかった。それは、ご家族の選び方が悪かったからではありません。まだ、どの土台から整えればいいかを、確かめていなかっただけかもしれません。
まずは、かかりつけの先生と相談しながら進めてください。そのうえで、今の相談で手応えが出ないときは、栄養を専門に診ている医師に相談することも、大切な選択肢だと思っています。
お子さんのせいでも、ご家族のせいでもありません。確かめれば、打つ手の順番が決まります。
合わせて読みたい関連記事
5つの土台は、それぞれの記事でもう少し詳しくお話ししています。お子さんの様子に近いものから読んでみてください。
・「食べるのが遅い」「すぐお腹いっぱい」は、わがまま? その不調、消化できずに苦しむ“お腹のSOS”かもしれません(① お腹)
・集中力が続かない・落ち着きがない子は鉄不足かも|脳の材料を小児外科医が解説(② 元気)
・寝つきが悪い・夜中に何度も起きる子は夜間低血糖かも|寝る前の甘いものと眠りを小児外科医が解説(③ 安定)
まとめ
・子どもの栄養は、「何を足すか」の前に「どこから整えるか」で届き方が変わります
・当院は、体を5つの土台に分けて、下から順に見ています。① お腹 → ② 元気 → ③ 安定 → ④ 守り → ⑤ 成長。その全部を、毎日の食べるものと暮らしが支えています
・お腹はすべての入口です。お腹の不調は、それ自体の困りごとであると同時に、栄養が届かない原因でもあります
・元気は鉄とB群、安定は血糖の揺れ、守りは油の種類とビタミンD・亜鉛、成長はタンパク質・脂質・亜鉛・鉄
・下の土台が整ってはじめて、材料は「育てる」ために使われます。鉄は5つすべてを横切って支えています
・順番は「どこから手をつけるか」を決めるためのもの。暮らしの中では、栄養と生活を同時に、少しずつ
・どの土台がぐらついているかは、お子さんによって違います。血液検査で確かめて、そこから始めます。検査は、食事やサプリメントを始める前がいちばん役に立ちます
・土台づくりは数か月単位の道のりです
何かを足すたびに迷っていた毎日が、「次はここ」と分かる毎日に変わります。土台が一段ずつ整っていけば、その子は、本来の力を出しはじめます。
今日から、ひとつだけ
本文でいくつかお伝えしましたが、全部を一度にやる必要はありません。まず今日から1週間、お子さんのお腹の様子をメモしてみてください。便の回数と形、お腹の張りや痛み。それだけで、いちばん下の土台がいまどうなっているかが、見えはじめます。受診されるときにも、そのメモがいちばん役に立ちます。
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どの土台から、何を、どんな順番で。診察室では話しきれない土台づくりの工夫や、「今日ひとつだけできること」を、小森こどもクリニック 栄養の公式LINEで少しずつお届けしています。何から始めればいいか迷う方は、ここから受け取ってください。
「うちの子はどうだろう」と確かめてみたい方へ
「いろいろ試したけれど変わらない」と言われていたお子さんで、詳しい血液検査をしてみると、土台のどこかが足りていなかった、というケースを当院では多く経験しています。どの土台から整えればいいかは、血液検査で確かめられます。当院の子どもの栄養外来(分子栄養学外来)では、困っていること・食べ方・便の様子・睡眠までうかがったうえで、検査をもとにお子さん一人ひとりに合わせて組み立てていきます。
ご予約は、当院ホームページの予約システム(デジスマ診療アプリ)から承っています。
診察室の外の発信
診察室では話しきれないこと、医師が何を考えながら診ているのかを、Xでも書いています。
小児外科医 小森広嗣🩺栄養×お腹 @KomoriKodomoCL
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
小児外科専門医・指導医、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。小児外科の出身として、いまは地域の中で、お腹と栄養の外来を深く追求している。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療と情報発信の両輪で活動している。
▶ 著書:『うんちが出ない!』(英智舎・2026年12月9日発売)
▶ 取材・講演のお問い合わせ:press@komori-kodomo.com