【小児外科医が解説】整腸剤を飲んでも子どもの便秘が治らない理由〜「菌を入れる」から大腸を「育てる」治療へ〜|こどもの便秘専門サイト|東京都国分寺市の小児科|小森こどもクリニック

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こどもの便秘Q&A

【小児外科医が解説】整腸剤を飲んでも子どもの便秘が治らない理由〜「菌を入れる」から大腸を「育てる」治療へ〜|こどもの便秘専門サイト|東京都国分寺市の小児科|小森こどもクリニック

小森こどもクリニックの小森医師が、親子の前で腸内環境の地図(GI-MAP)や食物繊維のイラストを見せながら、大腸を育てる治療について優しく説明している水彩画風のイラスト

「毎日整腸剤を飲ませているのに、便秘がよくなりません」
「ヨーグルトも毎日食べさせているのに、どうして出ないんでしょうか…」

 

便秘外来では、お母さんが不安そうにこう尋ねてこられることがよくあります。子どものためにと、毎日欠かさず薬を飲ませ、食事にも気を使っているのに結果が出ないと、どうしても「私のやり方が間違っているのかな」と自分を責めてしまいますよね。

 

でも、安心してください。それはお母さんのやり方が間違っているからではありません。まだ、腸内環境についての「新しい考え方」に出会っていなかっただけです。

 

実は、近年の腸内細菌研究で分かってきたのは、「菌を入れる」だけでは腸内環境は整わないということです。便秘を根本からよくしていくためには、大腸のエネルギー源である「酪酸(らくさん)」を増やし、菌が育つ「エサ(栄養)」を毎日届けることが必要なのです。

 

この記事では、小児外科医であり栄養療法の専門家でもある立場から、機能医学に基づく最新の腸内細菌研究の視点も交えながら、大腸を「育てる」ための具体的なステップを詳しく解説します。

 

1. なぜ整腸剤だけでは不十分なのか?(牛と牧草の法則)

 

市販でも様々な整腸剤が手に入りますし、病院の保険診療でも「ミヤBM(酪酸菌)」「ビオフェルミン(乳酸菌)」「ラックビー(ビフィズス菌)」などの有名な整腸剤がよく処方されます。

 

当院の便秘外来でも、腸内環境を整えるベースとして、ミヤBMなどの酪酸産生菌を処方することがあります。これらの整腸剤を飲むこと自体は、決して悪いことではありません。

 

しかし、整腸剤は腸内環境を作る「主役」ではなく、あくまで環境を整える「強力な助っ人」です。

 

なぜ、整腸剤を飲むだけでは便秘が治らないのでしょうか。それは「牛と牧草の法則」で考えると分かりやすいです。

 

菌(整腸剤など)= 牛
エサ(プレバイオティクス)= 牧草

 

牧草が一本も生えていない荒れ地に、いくら立派な牛を放っても、牛は育ちませんよね。それと同じで、腸の中に菌のエサとなる「栄養(水溶性食物繊維など)」がなければ、いくら外から菌を入れても増えることはできないのです。だからこそ、当院では「腸を育てる前提」がないと根本的な改善は難しいとお伝えしています。

 

2. 腸の健康を守る主役「酪酸」と、菌たちのリレー

 

では、腸内細菌たちは何をエサにして、何を作っているのでしょうか。
ここで最も重要なキーワードが「酪酸(らくさん)」です。

 

酪酸は、腸内細菌が食物繊維などを発酵して作る「短鎖脂肪酸」の一種です。この酪酸こそが、「大腸の細胞専用のガソリン」なのです。

 

酪酸には、便秘治療において欠かせない5つの重要な働きがあります。

 

1. 腸の燃料:大腸を元気に動かすエネルギー源になります。
2. 腸の運動調整役:腸のホルモンを介して、ぜん動運動を整えます。
3. 腸の修理屋:腸の粘膜を修復し、バリア機能を維持します。
4. 炎症のブレーキ:腸内の慢性的な炎症を鎮めます。
5. 免疫の教師:アレルギーや自己免疫の暴走を抑える細胞(Treg)を育てます。

 

菌たちは「チーム」で酪酸を作る(クロスフィーディング)

 

実は、腸の中では一つの菌が単独で働いているわけではありません。菌同士がバトンを渡すように協力し合って酪酸を作っています。これを「クロスフィーディング(菌の協力関係)」と呼びます。

 

腸内細菌の世界を「街」に例えると、こんなイメージです。

 

ステップ1:ビフィズス菌(食料工場)がオリゴ糖を食べて「酢酸」を作る。
ステップ2:乳酸菌(発酵工場)が「乳酸」を作る。
ステップ3:アッカーマンシア(インフラ整備担当)が腸の粘液層を整え、バリアを守る。
ステップ4:酪酸産生菌(発電所)が、酢酸や乳酸を利用して、最終的に「酪酸」を作り出す。

 

このように、ビフィズス菌や乳酸菌が作ったものを、別の菌が利用して酪酸を作るという見事なリレーが行われているのです。だからこそ、「特定の菌だけを入れる」のではなく、「善玉菌全体が育つ環境を作る」ことが重要なのです。

 

3. 小森こどもクリニックの「二段構え」の便検査

 

当院では、便秘や腹痛で悩むお子さんの腸内環境を評価する際、いきなり高額な自費検査を勧めることはありません。まずは保険診療(※一部年齢等により自費)でできる検査をベースに、「標準医療」と「機能医学(栄養医学)」の二段構えで腸の状態を読み解きます。

 

① まずは「腸の火事」を見つける(カルプロテクチン)

 

最初に確認するのが、便中の「カルプロテクチン」という炎症マーカーです。(※便を少し採るだけでわかる検査ですが、年齢や症状によっては自費でのご案内となる場合があります)

 

数値が著明に高い場合は、潰瘍性大腸炎(IBD)などの大きな病気を疑い、専門病院へ紹介します。これは「絶対に見逃してはいけない病気」を弾くための重要な砦です。

 

しかし、数値が「わずかに高い(軽度上昇)」場合、病気ではないから異常なし、とは考えません。これを「腸が軽く荒れている(くすぶる慢性炎症・リーキーガット)サイン」と捉え、根本治療をスタートします。

 

② 腸内生態系の地図を読み解く(機能医学の視点)

 

腸が荒れているサインがあった場合、次に「なぜ荒れているのか」「どんな菌が足りないのか」を深掘りする検査(腸内細菌叢検査など)を検討します。

 

こうした精密な便検査の結果は、単に「どんな菌がいるか」を眺めるためのものではありません。機能医学の視点では、「腸内生態系の地図」として、以下の5つのステップで読み解いていきます。

 

1. 感染症を探す:まずは病原菌がいないかを確認します。
2. 炎症をみる:腸の中で「火事」が起きていないかを確認します。
3. 消化吸収能力をみる:食べたものをしっかり消化できているかを確認します。
4. 腸管免疫を見る:Secretory IgA(腸の警備員)の数値を見ます。ここが低いと、ストレスや栄養不足で粘膜が疲弊しているサインです。
5. 腸内細菌叢を見る:ここで初めて、菌のバランスを見ます。

 

この最後のステップで、先ほどの「街のインフラ」を支える重要な菌たち(酪酸を作るフェーカリバクテリウムや、バリアを守るアッカーマンシアなど)がどれくらいいるかを確認します。

 

もし酪酸が不足して腸のバリアが壊れると、便秘や腹痛だけでなく、免疫の暴走(アレルギー)や代謝の異常(肥満)にもつながります。つまり、大腸を育てることは、便秘を治すだけでなく、子どもたちの全身の健康を守ることそのものなのです。

 

4. 大腸を育てる「三種の神器」(具体的な解決策)

 

では、具体的にどうすれば大腸を育て、酪酸を増やすことができるのでしょうか。
答えは、善玉菌のエサとなる「プレバイオティクス」を毎日の食事でしっかり摂ることです。

 

酪酸産生菌を育てるための「三種の神器」をご紹介します。

 

① オリゴ糖(ビフィズス菌の大好物)

 

多く含む食品:玉ねぎ、長ねぎ、にんにく、ごぼう、バナナ、はちみつなど。

 

② 水溶性食物繊維(腸内細菌が利用しやすい繊維)

 

当院としておすすめしている成分の一つに「PHGG(グァーガム分解物)」があります。豆科の植物から作られる非常に優秀な水溶性食物繊維で、水にサッと溶けて味も変わらないため子どもでも飲みやすく、腸内細菌のエサとなり「酪酸」を効率よく増やしてくれます。

 

その他にも、毎日の食事からは以下のような繊維を摂ることができます。

 

βグルカン:もち麦、大麦、オートミール
イヌリン:ごぼう、玉ねぎ、菊芋
ペクチン:りんご、キウイ、柑橘類
海藻由来:わかめ、昆布、めかぶ、もずく
難消化性デキストリン:※市販のトクホのお茶などに含まれることが多い成分です。

 

【補足】パウダー状のサプリメント(水溶性食物繊維)を選ぶ際の注意点

 

食事だけで十分な水溶性食物繊維を補うのが難しい場合、市販のパウダー状の食物繊維を利用するのも一つの方法です。しかし、お子さんのお腹の状態によって「選び方」には注意が必要です。

 

イヌリン:ビフィズス菌を増やす力は強いですが、腸内で急激に発酵してガスを発生しやすいため、お腹が張ったり痛くなったりする子もいます(High FODMAP食品)。お腹の張りが強い子には注意が必要です。
難消化性デキストリン:市販のトクホのお茶などに含まれることが多い成分です。お腹は張りにくいですが、腸内細菌のエサになる力(発酵性)は少し弱めです。
グアーガム分解物(PHGG / サンファイバーなど):当院が最も推奨している成分です。腸内細菌の良いエサになって「酪酸」をしっかり増やしながらも、ガスが発生しにくい(Low FODMAP)という優れた特徴があり、医療機関でも広く使われています。

 

【💡 食物繊維を摂る際の大切なポイント】
「これが腸に良い」と言われても、実際に食べてみないと、その子のお腹との「相性」は分かりません。ある繊維を摂ってお腹が張ってしまったからといって、「うちの子には食物繊維は合わないんだ」と諦めないでください。

 

「AがダメならBを試してみよう」というように、少量ずつ、いろいろな種類を試して、お子さんのお腹に合うものを探していくことが大切です。当院でもPHGGなどの推奨はありますが、一つに決めつけず、バランスよく探っていくのが一番の近道です。

 

③ レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)

 

小腸で吸収されず、大腸まで届いて菌のエサになる特別などでんぷんです。

 

多く含む食品:冷やご飯、冷やしたおにぎり、冷やしたじゃがいも、豆類、雑穀米など。

 

ご飯は冷やすことで、でんぷんの一部がレジスタントスターチに変化します(でんぷんの老化)。お弁当のおにぎりなどは、実は腸にとって最高のご馳走なのです。

 

5. 小児便秘外来での実践ステップ

 

実際の便秘外来では、いきなり食事を変えようとはしません。以下の順番で、焦らず確実に進めていきます。

 

1. まずは薬でしっかり「出す」(激流期)
伸びきった直腸(ゴム風船)を休ませるため、まずはモビコールやGE(前向きな浣腸)などの「補助輪」を使って、便を空っぽにすることが最優先です。
2. 腸内細菌のエサ(栄養)を増やす
もち麦、雑穀米、海藻、キウイなどを少しずつ食事に取り入れます。
3. 腸内環境を育てる(安定期)
ここからが「体への貯金」です。農場の法則と同じで、一夜漬けでは結果は出ません。毎日コツコツと水をやるように、エサを届け続けます。
4. 必要に応じて助っ人(整腸剤等)を追加
エサが十分にある環境が整ってから、必要に応じてミヤBMなどのプロバイオティクスを追加すると、より効果的に働いてくれます。

 

食事だけで補いきれない場合や、「具体的に何をどれくらい摂ればいいのか分からない」という場合には、当院の栄養外来で一人ひとりの腸内環境に合わせたプレバイオティクス(水溶性食物繊維やオリゴ糖など)やサプリメントの提案も行っています。迷ったときは、いつでもご相談ください。

 

6. よくある質問 (Q&A)

 

Q: 冷やご飯は、食べる前に温め直してもいいですか?
A: 軽く温める程度(人肌くらい)なら、レジスタントスターチは残ります。熱々まで加熱すると一部は減少してしまいますが、「絶対に冷やご飯でなければ意味がない」わけではありません。一番大切なのは、雑穀や大麦などを「継続して摂ること」です。

 

Q: ヨーグルトを毎日食べさせていますが、それだけではダメですか?
A: ヨーグルト(乳酸菌やビフィズス菌)は素晴らしい食品ですが、それ自体は「菌(牛)」を入れている状態です。その菌たちが腸の中でしっかり働き、最終的に「酪酸」を作るためには、やはりエサとなる「食物繊維」や「オリゴ糖(牧草)」を一緒に摂ることが必要不可欠です。

 

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まとめ

 

現代の医療は、「腸内細菌を入れる医療」から「腸内細菌を育てる医療」へと進化しています。

 

整腸剤を飲んでも便秘がよくならないのは、お母さんのせいではありません。ただ、菌たちを育てるための「エサ(栄養)」が少し足りていなかっただけです。

 

まずは薬という「補助輪」の力をしっかり借りて、腸の火事を鎮めましょう。そして同時に、毎日の食事で大腸を育てる「体への貯金」を始めてみてください。

 

すぐには結果が出ないかもしれません。でも、毎日コツコツと届けた栄養は、必ず子どもの腸を育て、便秘だけでなく、一生の健康を守る強い土台になってくれます。応援部隊として私たちもしっかり伴走しますので、焦らず、一緒に進んでいきましょう。

 

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この記事の執筆・監修者

 

小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)

 

小児外科専門医・指導医、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、小森こどもクリニックを開院。年間5,000組以上のお子さんとご家族の便秘治療に携わる。腸の「構造(小児外科)」と「機能(栄養療法)」の両面からアプローチする独自の診療スタイルで、重症・難治性の便秘にも対応。便秘治療に関する書籍を2026年刊行予定(英智舎)。

 

「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療と情報発信の両輪で活動している。

 

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