
「食物繊維の多い食事を心がけているのに…」
「水分もオリゴ糖も試したけど、便が出ない…」
「こんなに頑張っているのに先が見えない…」
お子さんの便秘を良くしようと食事療法に真剣に取り組むあまり、心身ともに疲れ果ててしまっている保護者の方から、こうした切実なご相談を数多くいただきます。
この記事は、そんなご家族の頑張りを認め、心を少しでも軽くするために書きました。小児外科医の視点から、便秘治療における食事療法の「本当の役割」と、親子で笑顔を取り戻すための新しい考え方をお伝えします。もう一人で抱え込む必要はありません。
この記事でわかること
・なぜ食事療法だけでは便秘が治りにくいのか
・家庭でストレスなく続けられる食事の工夫
・食事と切り離して考える「排便トレーニング」の重要性
お子さんの便秘、当てはまりませんか?
まずは、お子さんの状態を客観的にチェックしてみましょう。一つでも当てはまれば、便秘症の可能性があります。
・排便の回数が週に2回以下
・排便時に痛がったり、いきんでもなかなか出なかったりする
・便が硬くてコロコロしている、または太くて硬い
・時々、下着に少量の便がつくことがある[便失禁]
・お腹が張っている、食欲がない、機嫌が悪いことがある
これらのサインは、お子さんの体が「助けてほしい」と送っているメッセージです。決して保護者の方の努力不足が原因ではありません。
なぜ?食事を頑張っても便秘が治りにくい理由
食事療法は便秘治療の基本ですが、それだけで改善が難しいケースは少なくありません。なぜなら、子供の便秘の原因は食事だけでなく、様々な要因が複雑に絡み合っているからです。
・生活習慣:トイレに行く時間がない、遊びに夢中で便意を我慢してしまうなど。
・心理的要因:硬い便で一度痛い思いをしてから、排便を怖がるようになってしまう。
・身体的要因:もともと腸の動きがゆっくりな体質や、便を出すための筋力が弱いなど。
特に一度慢性化してしまった便秘では、直腸[ちょくちょう:便が溜まる場所]に硬い便が常に溜まっている状態になり、腸が鈍感になって自力で便を押し出す力が弱まってしまいます。この状態を、食事の工夫だけで改善するのは非常に困難なのです。
家庭でできる「頑張りすぎない」食事の工夫
当院では、食事療法を「最小限の、無理のない取り組み」で良いとお伝えしています。食事がストレスになったり、親子関係の負担になったりしては本末転倒だからです。大切なのは、食卓が「楽しい時間」であり続けること。
✔️完璧を目指さない
毎日バランスの取れた食事を作るのは大変です。まずは「いつもの食事にプラスワン」を意識してみましょう。白米を少し麦ごはんに変える、お味噌汁にきのこや海藻を入れる、おやつを果物やヨーグルトにするなど、小さな工夫で十分です。
✔️水分補給のコツ
一度にたくさん飲ませるのではなく、遊びの合間や食前食後など、こまめに声をかけるのが効果的です。水やお茶を嫌がる場合は、薄めた果汁や野菜スープなどでも構いません。
✔️食の個性を尊重する
お子さんにはそれぞれ好き嫌いや食べムラがあります。それはごく自然なことです。無理強いせず、お子さんが好きな食材の中から、比較的便秘に良いとされるもの(さつまいも、かぼちゃ、バナナなど)を取り入れる工夫をしてみましょう。
「食事で治さなきゃ」という考えから、一度自由になってみませんか?
お子さんの便秘の悩み、私たち専門家と一緒に解決の道筋を探しましょう。
医療的介入のタイミングは?「食事」と「排便」を切り分けて考える
食事療法を頑張っても改善が見られない場合、それは「治療のステップアップが必要」というサインです。当院が最も大切にしているのは、「食事の内容や量にかかわらず、しっかり排便できる」ようにトレーニングしていくこと。そのために「食事」と「排便」を切り分けて考えます。
✅お薬の役割
便秘のお薬は、癖になるものではありません。硬くなった便を柔らかくし、腸を傷つけずにスムーズな排便を助ける「サポーター」です。適切な薬を使うことで痛みのない排便を経験し、「トイレは怖くない」という安心感を取り戻すことが、治療の第一歩です。
✅排便トレーニング
薬で便が出やすい状態を作った上で、毎日決まった時間にトイレに座る習慣をつけます。これは、便意がなくても行うのがポイントです。朝食後など、腸が動きやすい時間帯がおすすめです。このトレーニングによって、鈍感になっていた腸に「この時間に便を出すんだよ」と再教育していくのです。
食事は食事として楽しみ、排便は排便として専門的なトレーニングを行う。この切り分けが、お子さんとご家族を便秘の悩みから解放する鍵となります。
よくあるご質問(Q&A)
Q. 薬を使い始めると、ずっとやめられなくなるのでは?
A. そんなことはありません。お薬は、あくまで正しい排便リズムを取り戻すためのお手伝いです。お子さんの腸が自力でスムーズに排便できるようになったら、医師と相談しながら少しずつ減らしていきます。最終的には薬がなくても快便が維持できる状態を目指しますので、ご安心ください。
Q. 食事療法は、まったく意味がないのでしょうか?
A. いいえ、決して無意味ではありません。バランスの取れた食事は、お子さんの健やかな成長にとって不可欠ですし、長期的に見れば腸内環境を整える助けになります。ただ、「食事だけで治そう」と固執しすぎず、治療全体の中の一つの要素として、無理のない範囲で取り入れるのが良い、ということです。
まとめ:お子さんの「出ない」悩み、一人で抱え込まないで
お子さんの便秘治療において、食事療法は大切な一部ですが、全てではありません。もしが食事療法に疲れ、「もうどうしていいかわからない」と感じているなら、それはご家族の努力が足りないからでは決してありません。治療の方向性を変えるべき時が来た、というサインなのです。
まずは、これまで頑張ってきたご自身をたくさん褒めてあげてください。そして、食卓を親子のかけがえのない「楽しい時間」に戻しましょう。
排便のコントロールは、私たち小児外科の専門分野です。お子さん一人ひとりの状態を正確に診断し、その子に合ったオーダーメイドの治療計画を立て、ゴールまで根気強く伴走します。一歩踏み出せずにいるあなたと、お子さんの未来のために。私たちが、その「次の一歩」を全力でサポートします。
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便秘でお悩みの方へ:栄養面からのサポート
当院では、お腹の専門医(小児外科専門医)としての知見を活かした栄養外来を行っています。
便秘を繰り返すお子さんは、腸内環境だけでなく、鉄・亜鉛・ビタミンDなどの栄養素が不足しているケースが非常に多いことが分かっています。「腸」と「栄養」の両面からアプローチすることで、お子さんの体の土台を根本から整えていきます。
栄養外来では、血液検査で「隠れた栄養の不足」を確かめたうえで、お子さん一人ひとりに合わせた食事とサプリメントの戦略を組み立てます。食事療法を頑張っても動かなかった便秘が、栄養を補うことで動き出すことは、めずらしくありません。
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この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部を卒業後、東京都立小児総合医療センター外科医長などを経て、東京都国分寺市に「小森こどもクリニック」を開設。現在は、日本でも珍しい小児外科専門医が開設する「便秘専門クリニック」として、年間延べ約5,000人の診療にあたっている。その実績から、都内のみならず遠方や海外からの受診・相談も多く、セカンドオピニオンも積極的に受け入れている。丁寧な対話を通じてご家族と「治療のゴール」を共有し、一人ひとりの状況に合わせて治療戦略をカスタマイズする、オーダーメイドの診療スタイルを実践している。日本小児外科学会認定の小児外科専門医・指導医、医学博士。
「成長の感動や喜びをお子さん・ご家族と分かち合い、楽しく安心して子育てができる社会を創る」ことを自身のビジョンとし、診療や情報発信を行っている。
▶ メディア掲載:VERY web「うちの子トイレでうんちができないんです」問題
参考文献
日本小児栄養消化器肝臓学会, 日本小児消化管機能研究会 編. 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン. 診断と治療社, 2013.




